【末廣 昭】 開発と市場移行のマネジメント —ラテンアメリカ、アジア、ロシア・東欧の経済制度改革の比較研究—
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私はこのプロジェクトの組織委員会のメンバーであり、私たちのチームはこのプロジェクトを二つのやり方で進めていこうと考えている。ひとつは、対象国を特定した上での、問題別のアプローチで、主として世界銀行やIMF,国際政治学者が行ってきた仕方である。ここでは自由化や金融改革などの事項を扱う。もうひとつは地域に即したアプローチで、私は後者の地域研究に属している。
私は現在、アジア政経学会の事務局長でもあるので、マレーシア、台湾、韓国などを含むアジア諸国の中の専門家で、このプロジェクトにふさわしい研究者を組織することはそれほど難しくない。むしろ日本の研究者たちにとって問題なのは、違った視点を持つ地域研究者同士がディスカッションをする機会がないことである。もちろんコーネル大学には、ラテンアメリカと東アジアの比較研究のプログラムがあるが、東南アジアやロシア、東欧などは含まれていない。日本ではこの分野での共同研究の機会は本当に少ない。私は昨年ラテンアメリカや東アジア、東南アジアの地域研究のグループとの共同研究に参加し、通貨や経済危機に関する討論を行ったが、たった4回の研究会が開かれただけである。
ただ当研究所は東アジア、東南アジア、ロシア、東欧などいくつかの地域の専門家がおり、ラテンアメリカの研究者も含めて比較研究を組織するのに最適な場所である。ただし私は地域割の研究会を組織するつもりはない。そうでなくて同じトピックに関して、地域横断的な、相互に連携した共同研究を行いたい。
IMFや世界銀行は1980年代、ラテンアメリカだけでなく、フィリピンやタイ、インドネシアなどに対してもstructural-adjustment loans や構造改革を始めた。アジアの三国に対しては、世界銀行は非常にインテンシヴなプログラムで、構造改革をはじめた。しかしこの問題はまだほとんど研究されていない。その後、IMFと世界銀行はロシアや東欧に対しても組織改革や制度改革を導入し、また東アジアと東南アジアでも、経済安定化だけでなく制度改革もはじめた。
これらの異なる地域でIMFや世界銀行が行った改革の経験を比較することは非常に実りあるものとなるだろう。
したがって異なるデータベースに基づいて同じ問題を共有し、討論しなければならない。我々にとって今必要なのは、信頼できる組織からの直接の情報である。ラテンアメリカ諸国のいくつかにはよいモデルがあるし情報も提供されるが、東アジア・東南アジアは情報がまだない。この面でも我々はいくつかの問題に関して貢献しなければならないし、これらの地域のデータベースを収集して共有することを試みるべきである。
もう一つ、私はフェラス氏や河合氏が言われたように第1と第2の論点を一緒にすることには賛成しない。自由化とグローバリゼーションは区別されるべきである。グローバリゼーションは、我々の対象国にとっては国際的な枠組みであり、外的な圧力によるものである。一方、自由化はひとつの選択であり政策である。重要なことは誰が、いつ、自由化を決定したのか、誰が自由化政策を拒否したのか、あるいは誰が要求し、誰が歓迎したのか、ということである。これはまだ解明されていない。我々は、財政についてだけでなく、自由化のプロセス、特に海外からの直接投資について詳細に研究する必要がある。それぞれの国で誰が直接投資の自由化を決めたのか、これは経済的なイシューではなく、非常に政治的なイシューであると思う。
今行われている国内の改革は、IMFや世界銀行のような国際組織がまず提案している。重要なことは、それぞれの国で、国内改革を誰が導入し、誰が実行しているかということである。これは第一の問題とは異なる局面である。
三つ目の問題はソーシァル・セイフティネットである。もちろん世界銀行はソーシァル・セイフティネットを導入したパイオニアであり、リーディング・オピニオンである。が、現在ではNGOを含むローカルグループがセイフティネット形成の問題に参加している。これは金融改革と異なっている。金融改革はグローバル・スタンダードの導入の仕方に関わるからだ。そのためローカルの人々は国際的な組織や投資家グループとのあいだでコンフリクトを経験するだろう。一方、ソーシァル・セイフティネットはこれらとは違う。
インスティテューショナル・キャパシティは第2の、国内改革に含めて検討されるべきである。国内の改革にとってこれはもっとも重要なことであるが、地域研究、地域に即したアプローチにとっては、もっと明確なターゲットを創出しなければならない。第1の論点について、各国の自由化のプロセス、背景、歴史的側面をターゲットにするのか、それとももっとグローバル化の側面や自由化のプロセスにおける国際関係を重視すべきか否か、である。
第2の論点については、インスティテューショナル・キャパシティの研究が地域研究にとってもっとも重要な研究テーマであるか否か、が問われなければならない。この点を私はまず地域研究のチーム、タイの研究チームや東南アジア研究チーム等々に持ち帰って議論したい。そのあとでこの三つの論点が、地域研究グループがこのプロジェクトで担当するのに適しているかどうかを議論することにしたい。
いずれにせよ私は地域研究に属したいが、今までのような伝統的な地域研究のアプローチを超えた研究をしたいと考えている。
<要約:土田とも子>
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