セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第7回プロジェクトセミナー

1999年11月16日 ◆於:社研大会議室

開発と市場移行のマネジメント
—ラテンアメリカ、アジア、ロシア・東欧の経済制度改革の比較研究—

問題提起・司会:中川 淳司(社会科学研究所)
ゲスト:Choong Yong Ahn(韓国中央大学国際関係学大学院教授)
ゲスト:Joao Carlos Ferraz(リオデジャネイロ連邦大学経済研究所長)
ゲスト:Keun Lee(ソウル大学経済学部準教授)
ゲスト:河合 正弘(世界銀行 東アジア・太平洋 主席エコノミスト)
ゲスト:Miguel F. Lengyel(ラテンアメリカ社会科学研究院プロジェクト副代表)
コメンテーター:末廣 昭、藤原 帰一

以下は第7回プロジェクトセミナーの議論の概要である。

【Choong Yong Ahn】  開発と市場移行のマネジメント
—ラテンアメリカ、アジア、ロシア・東欧の経済制度改革の比較研究—

問題提起

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 第1に、1997年に始まったアジアの金融危機を経験したあとに、東アジアのグロ−バリゼーションの経験を、1978年以来の開放政策採用後の中国の体制移行と同じコンテクストで語れるか、ラテンアメリカの改革についても同じ視角で語れるのか、という問題がある。これらは時期的にも原因という点でも異なる状況で起きたので、同じ地平に並べることは疑問である。もちろん三つの異なる移行経済の経験からそれぞれが学べるものは多い。しかし東アジアの国々だけをとってみても改革とグローバリゼーションの経験、例えば韓国、インドネシア、タイ、マレーシア、台湾での経験と、どのようにそのプロセスをマネージしたかは、それぞれの国で非常に違う。私は移行経済、東アジアの経験、ラテンアメリカの経験という3つのグル−プを区別する必要があると思う。

 次に韓国の経験についていうと、「グローバリゼーション」はこの間ずっとキャッチィなスローガンであった。国民はグローバリゼーションを選択の余地のないものと受けとめている。彼らは1998年末に突然に外貨準備を枯渇させる結果となった政策を是認してさえいる。そのときから金融市場、企業労働市場、公共セクターの改革は続けられてきた。韓国の経験は多くの改革に光を当てることが出来る。私は改革が生み出した結果や明らかになったイシューや、積極的なグローバリゼーションのプロセスを明らかにすることが出来る。

 私はまた台湾やマレーシアの経験を強調したいと思う。なぜ台湾が東アジアの経済危機から深刻な影響を被らずにすんだのか、なぜマレーシアは海外からの短期資本の動きをコントロールする政策をとることが出来たのか等、東アジアのグロ−バリゼーションのプロセスについて有用な情報と理解が得られる。すでにマレーシア経済は回復基調である。これらの国が輸出主導型の開発戦略を根本から推進し、マクロ経済のファンダメンタルズの健全化に力を注いだ結果であろう。

 しかし深刻な金融危機に見舞われた国もある。なぜそうなったのか。通常東アジアに焦点を合わせるときにマクロ経済のファンダメンタルズに言及するが、このイシューを考えることによってグローバリゼーションのインプリケイションが明らかになる。

 しかし中国の移行経済のプロセスは、東アジアの金融危機の中で進行するグローバリゼーションのプロセスとは異なっている。同様に、ラテンアメリカの改革のプロセスもまた異なったパースペクティヴから見るべきものである。東アジアの経済危機は突然に起こった。他方ラテンアメリカは過去20年ほどの間に数回金融危機を経験している。このようにラテンアメリカと東アジアの比較研究は、問題の由来やグローバリゼーションの影響について異なった歴史的パースペクティヴを提供する。

 私はラテンアメリカの改革のプロセスについて専門ではないし中国の移行経済の詳細についても知らない。にもかかわらず最近の東アジア経済の経験は他の国々よりもグローバリゼーションのインパクトを解明するのに役立つとおもう。それは突然の危機であったからである。数年前には健全なマクロ経済のファンダメンタルズを達成し、持続可能な開発を手にしたと思われていたのに、なぜ突然に東アジアの国々は金融危機に陥ったのか? おそらく東アジアの経験のインプリケイションは、ラテンアメリカや中国のそれとは異なっている。

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<中川淳司>