【吉川 洋】 転換期の日本経済
→【討論】
はじめに
90年代は日本経済の転換点であると指摘されているが、それはどういう点からいえるのか、以下考えてみたい。
日本経済の実質成長率は、55〜70年の高度成長期が平均10%、オイルショックを経て75年〜90年の平均が4%、91年末に平成不況が到来して、92年〜98年の平均が1%、となっていて、90年代はそれまでと比べて際だって成長率が落ちている。
アメリカはこの時期の成長率が3%で、ドイツ、フランスも2%弱であったことを見ると、他の先進国と比較してもこの時期の日本の成長率は低い。
その主たる原因は設備投資の不振と消費の低迷である。
- 需要。設備投資と輸入の成長寄与度を見ると、92年ー94年の落ち込みのあと設備投資は回復して2%の成長寄与度を実現するが、ちょうどこれを打ち消すように輸入が増加した。この時期の輸入の成長寄与度はマイナス1.9%であった。この二つは通常でも反対の方向に動く傾向があり、それが経済安定化作用でもあるのだが、日本は際だってこの傾向が強く、特にこの時期輸入性向の急上昇が見られた。円高により製造業が生産拠点の一部をアジアに移し、その結果の逆輸入がこの時期に顕著になったと見られる。
この点を指摘している議論は少ないが、篠原三代平は『長期不況の謎を解く』の中で、90年代の日本の輸入の動きが成長を阻んでいると述べている。
- 公共投資については、97年はマイナス0.9%の寄与度であり、これがかなり成長に逆噴射をかけた。景気のピークを下り始める時期に、財政再建をうたって大幅な支出カットを実行するなど、歳入面でも歳出面でも財政政策の急転回をはかったのは大きな間違いを犯したことになる。97年秋以降本格化した金融市場の混乱、信用不安がこれに追い打ちをかけた。
- 消費の低迷。家計消費全体を見ると、バブル崩壊後の地価下落による逆資産効果というより、年金・社会保障のデザインが構築されていないことによる不安や雇用不安による消費の落ち込みの方が大きい。これに上記の輸入の動きと、財政政策のミスが重なった。
<記録:土田とも子>
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