セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第8回プロジェクト・セミナー

1999年12月14日 ◆於:社研大会議室 ◆司会:大瀧 雅之

報告:吉川 洋
 転換期の日本経済

第8回プロジェクトセミナーでは吉川洋氏から報告がなされた。

【吉川 洋】  転換期の日本経済   →【討論】

はじめに

不良債権とマクロ経済

為替レート

製造業と非製造業

労働市場

財政収支の悪化

将来展望

 現在は悲観論が強い。今後の人口動態予測が悲観論の大きな根拠となっている。生産年齢人口が減っていくのが成長をマイナスにする、という意見である。

 しかしこの考え方にはTFP(全要素生産性)→技術進歩がカウントされていない。TFPは成長率と高い相関を持つが、労働人口の増減は成長への寄与率から見るとマイナーな影響しかない。アメリカの例でいうと、現在でも賃金のうち体力的労働は4割なのに対して技術的・知的労働は6割である。さらに今後体力的労働から技術的・知的労働へ重点がますます移っていくであろう。労働人口の頭数では成長の有無は決まらない。

 Aoki/Yoshikawa(1999)による成長モデルを以下紹介したい。

 新しい財—産業が興るとその需要ははじめ急成長するがやがて成長は鈍化する。需要とその伸びによって決まる資本蓄積・生産の成長がS字型カーブを描くのである。そのうちまた違った新たな財・産業が生み出され、この成長によって古い財の成長鈍化が打ち消される。技術進歩が需要の伸びの大きい新しい財を誕生させる「需要創出」効果を通して、経済成長に貢献するのである。つまり新しい産業が興り経済成長を牽引するような繁栄の経験を経て、必ずその産業の成長は鈍り停滞する時期が来る、やがてまた別の産業が興って成長を牽引する、というサイクルが雁行形態のような形を描く。

 成長を持続させるのは高い需要の伸びを持つ新しい財/産業を生み出すイノベーションの力であり、日本はまだ成長のポテンシャルがある。

 衰退産業の保護ではなく、新しい、成長を引っ張っていくことができるような産業が興ることを、支援する政策が必要である。

<記録:土田とも子>