【末廣 昭】 「コーポレート・ガバナンス」と「グッド・ガバナンス」—世界銀行、日本、タイの捉え方— →【討論】
【報告のレジュメ】「コーポレート・ガバナンス」の定義と国際比較
-
(1)日本銀行金融研究所の定義
-
「株主、経営者、従業員、債権者、取引先企業など企業をめぐる経済主体の利害調整を円滑・妥当に行ないつつ、企業経営を規律づけるための仕組み」(『金融研究』第13巻第3号、1994年9月、1、16ページ)。
→【表3、参照】
-
(2)米英型と日独型:企業の規律づけ
-
「日本、ドイツ、フランスのガバナンス・システムは、株主ないし銀行と経営陣の直接のコミュニケーションによる企業経営の規律づけが中心とされており、この点で証券市場の役割は小さい。これに対して、米国・英国では敵対的買収等を含む市場を通じた規律づけが中心となっている」(同上、2ページ)。
-
(3)日米の比較:
-
ストック・ホールダー型とステイク・ホールダー型 「アメリカにおけるコーポレート・ガバナンスの議論は、専ら投資家側がどのようにして経営者の行動を監視し、株主の利益のために奉仕させるかという側面が強調される。これに対して日本では、公開会社を単に株主だけのものではなく、従業員、メインバンクをはじめとする債権者、下請業者などの、ステーイクホールダーの利益も含めた運命共同体としての側面が強調されてきた。…・行き過ぎた経営者支配に対するチェック機能の欠如が大きな問題となっている」。(井出正介、証券分析用語解説、『証券アナリストジャーナル』93年7月号、44ページ)
→【表2、参照】
-
(4)シェアード『メインバンク資本主義の危機』:
オープン型とインサイダー型
→ 【表4、参照】
-
(5)宍戸善一(成蹊大学:法律)の理解:制度論としての株主主権論
-
「わが国においても、アメリカにおいても、株式会社法制度が前提としているコーポレート・ガバナンスの基本モデルに、ほとんど差違はない。株式を買う形で金銭出資をした者にだけ、議決権が与えられ、株式の過半数を取得した者が、取締役を独占して、会社の支配権を取得する。言い換えれば、従業員や債権者などの利害関係人は、コーポレート・ガバナンスの参加者としては予定されておらず、比例代表的な意思決定の仕組みをとらない。株主主権か、従業員主権か、という議論に則していえば、株式会社法は、株主主権を前提としており、会社の所有者たる株主が、代理人たる経営者をして、株主の利益を最大化する経営を行わしめるようにモニターするという、いわゆるエージェンシー・モデルに基づいて制度が成り立っている。」
(宍戸善一「日米比較コーポレート・ガバナンスと商法改正論議への示唆」(『民商法雑誌』117巻4・5号、1998年、601ページ)
-
宍戸、コーポレート・ガバナンスの議論を3つのレベルに分ける。
(1)制度論(株主主権論)、(2)実態論(会社共同体)、(3)規範論
-
実態論としての「会社共同体」:平等と効率の同時達成はなぜ可能であったか。
-
「会社共同体」:「経営陣、取締役メンバー、従業員」+銀行、インサイダー株主
-
株式相互持ち合いによる経営の自律性の確保。
-
従業員の疑似的なレジュデュアル・クレイマント化(quasi-residual claimant)
→債務を払った後の残余を誰が請求するか。会社の利益は、安定株主への配当を除いた後の利益は従業員のボーナスに大きく影響。会社規模の拡大は、ポストの増加、取締役への昇進の可能性の拡大。経営陣(代表取締役)は取締役の互選。
-
最後の規範(end-game norm)としての株主主権の存在。 → 東欧の労働者管理企業とは異なる。
※ホームページでは図表は省略した
<記録:土田とも子>
|