【末廣 昭】 「コーポレート・ガバナンス」と「グッド・ガバナンス」—世界銀行、日本、タイの捉え方—
討論
報告をめぐる議論は多岐にわたったが、特に社研の次期共同研究のキーコンセプトとなりうるかどうかと関連した論点は、概要以下のようなものであった。
- 日本で今流行っているコーポレイトガヴァナンス論は、従業員の視点が抜けていて、証券・金融市場の改革という市場の理論としてのみ展開されている。したがって労使関係や生産システムなど従来社研で議論の中心であった重要な問題とかみ合わないのではないか。
-
それでもこれがキーコンセプトとして予定されたのは、社研が分析の対象としてきたような経済の実体上のコアは依然としてしっかりしていても、金融市場の問題で経済全体が危機になり、しかもそれが社会全体に影響を及ぼしているからか。
- 経済危機の処方箋をコーポレイトガヴァナンスで理解する日本と、コミュニティベ−スのネットワーク型社会と「ほどほどの経済」を提起するタイ、危機への対応の違いでそれぞれの社会の本質を比較するということで、国際比較の視点をプロジェクトの中心に据えることが出来るという判断か。
- コーポレイトガヴァナンスは共同研究プロジェクトの重要な部分ではあるが、同時に経済構造改革・規制緩和など市場関係の見直しという動きを外国とも比較して見ていく必要がある。
- 多元的な社会の中で秩序をどう造っていくかという、自動詞的な意味で今いわれているコーポレイトガヴァナンスを理解してよいか。
- もともと企業の財務中心の話であったコーポレイトガヴァナンスが、今日本的経営論や日本型生産システム論まで含む広い概念として何でも取り込まれている感じだが、ここは分けて議論した方がよいのではないか。
- タイではコーポレイトガヴァナンス論は重要な問題として議論されているわけではない。企業の建て直し、今までの技術形成の継承と改善など、企業経営を中心とした議論が活発ではない。危機への対応としては社会の安定がまず考えられ、ネットワーク型の「強い社会」が提起される。これは企業が重要な議論の対象になった韓国とも違う。企業の発展レベルの差なのかどうか考えてみる必要がある。
<文責:土田とも子>
|