「希望と挫折」
宮田 祐子(キャリアコンサルタント)
「夢を持てなんて言うから子どもが迷うんだ。夢なんていつの時代もごく一握りの大人しか叶えられないのだから」
玄田先生の言葉が、疑いもしなかった私の夢に疑問を抱かせたのは2年前のことでした。 「夢は叶う」という希望を若者に伝えていきたいと考え、働いていた私にとって、それは一つの挫折でした。
私が仕事を通して実現しようとしていることは間違いなんだろうか。 若者を苦しめているだけなんだろうか。そんなはずはない、そう思いたくない・・・。 今振り返ると、それこそが私にとっての希望だったのかもしれません。
「挫折」という暗闇の中でかすかに光る希望が、人間関係を通して磨かれ育つこと。 それが「働く希望」なのだと、今は感じています。
会社の会議で、大学1、2年生向けのキャリア支援内容について話していたときでした。 「自分の夢を一度リセットしないと、新しいスタートが切れない」と話した人がいました。
中・高時代、何になりたかったことを一度吐き出してご破算にする作業が必要だ、それが出来ないといつまでも前を向けないままになってしまうことがある。 その場にいた大人の全員が納得したように見えました。
夢を叶えるためにはリセット経験が必要。 言葉を換えればそれを「挫折」というのかもしれません。
その話を聞きながら、ふと、社内ミーティング中に社長が言っていた言葉が浮かんできました。
「子供の頃になりたかった職業ってメタファーなんだよね。 私は外交官や作家になりたかった。 多分、英語を使って仕事することに憧れたから外交官に憧れ、 何かを伝えることがしたいから作家になりたかったんだと思う。 今その夢を直接的には実現していないけど、 考えてみたら、この仕事でその2つを間接的に実現できているんだよ。 みんなも一度小さな頃の夢を思い出してみると、 今のビジョンが見つかるんじゃないかと思う」
この2つの話が重なったとき、私の中で「希望」のイメージが変わっていくのを 感じました。 希望とは、必ずしも強く光り輝く「強さ」ではないのかもしれない、と。
むしろ、働く希望とは「なぜそれを目指したのかに戻って、現実の仕事の中で作り直していく作業」であり、幼い頃抱いた夢を、現実世界に即しながら、実現できるかたちに作り上げていくことなのではないか、と。
だから希望を持ったことがあり、挫折をしたことがある人は仕事にやりがいを感じることが多い(というデータが出た)のではないか。 夢の作り直しを繰り返しながら、仕事を造り上げていくからこそ、そこにやりがいを見出していけるのではないか。 希望と挫折って、そういう関係なんじゃないかと思うのです。
もう一つ思うことがあります。
希望を叶えていこうとするとき、自分と他人を信じられる力が必要だろうということです。 これは若年者支援をしていて感じることです。
希望は公言してしまうとなんだかきれい事に聞こえたり、白々しく聞こえたりもします。 そして、ある一定の年齢を越えた日常の中では目上の人や他人から、いとも簡単に非難・否定されやすいものです。
だから希望は、秘かに大切にしている事が多くて、その希望を大切に出来る自分と希望を大切にしてくれる誰かが揃って初めて口に出せるんじゃないかと。
こんな女子高生に出会ったことがありました。 高校3年生向けにワークショップをしていた時のことです。 その彼女のワークシートの「将来なりたい職業」という欄には「キャバ嬢」とひとこと書かれていました。
その子の隣に行って、そっと話しかけました。
「なんでキャバ嬢がいいの?」
「えー、だってラクじゃん。オヤジの横に座って、酒注(つ)いでたら いい給料もらえるし。 ラクして早くカネ稼げるもん。」 「そう、お金が沢山欲しいんだ。じゃあ、お金いっぱい稼いで何したいの?」 「服とか欲しいもの沢山買って、色んなとこ遊びに行ったりして暮らすの」 「あとは??それでもまだお金あったら何がしたい?」 「・・・・・・。」 「何でもいいよ。お金がたくさんあって欲しいものが全部手に入って、 そしたら次は何がしたい?」
すると彼女は急に小声になり、照れくさそうにうつむいて、こう話してくれました。 「・・・・・保育士になりたい・・・子ども・・好きだから」 「そっかー、本当は保育士さんになりたいんだ」 「うん。でも、ウチ……カネないから。就職しなきゃなんないしさ」
希望って照れくさくて、誰にも汚されたくない、大事なものなんだろうと思います。 子どもの頃、大事な宝物や秘密基地は大事な人にしか教えなかったように。
だから、希望に満ちた世の中があるとすれば自分を大事に思える気持ちと、その希望を共有できる人間関係の存在が欠かせないんじゃないかと、感じます。
だとしたら、子どもや若者たちが希望を持つには、私たちは立派な大人である必要はないのかもしれません。 正しい答えを示す必要もないのかもしれません。
同じ人間としてお互いの希望を見つめ合いそこに向かって自分らしい働き方を探していく姿勢、それこそが今、必要なことかもしれないと思います。 希望を形創っていく楽しさに、答えはないんですから。
だから希望とは、決して強く光り輝く「強さ」ではなく、今にも消え入りそうなほどにはかなく生まれ、幾度も挫折を繰り返しながら、温かい人間関係の中で育てあう過程そのもの。 それが「働く希望」なのかなと、私は感じています。
宮田祐子 (みやたゆうこ) キャリアコンサルタント。 大学卒業後、大手総合小売業に従事。その後、人材育成コンサルティング会社
OUT FRONTに在籍。NPO法人 学生キャリア支援ネットワーク理事。
若年者のキャリア形成支援を中心に活動。 家庭・学校・企業という3つの育成現場を通して紡がれていくキャリアと、それを支える「人」「環境」に着目。
次世代を育成しあえるキャリア形成環境の創造を支援している。
↑PAGE TOP
|