橘川武郎・著
化学工業日報社
2013.02.19
『「希望学」日本再生への道 釜石からのメッセージ』(化学工業日報社、2013年)の刊行について橘川 武郎(きっかわ たけお) 本書は、「希望学」の釜石調査を通じて得られた知見にもとづき、日本再生の道筋を展望したものである。
「希望学」は、東京大学社会科学研究所(東大社研)が2005年に始めた学問である。当時、筆者は東大社研に所属していたが、2005年7月に青山の東京ウィメンズプラザ・ホールで「シンポジウム 希望学宣言!」を開催し、「希望学」を旗揚げしたころには、率直に言って当事者の1人でありながら、それがどのような学問であるのか、皆目見当がついていなかった。しかし、現実から出発するという姿勢に徹する「希望学」が2006年に開始した「釜石調査」や、2009年に取り組み始めた「福井調査」に参加するうちに、さまざまな知見を得ることができ、さらには研究者としての自らの立ち位置を再確認することもできた。2011年3月11日に発生した東日本大震災にともなう東京電力・福島第一原子力発電所の事故によって日本のエネルギー政策は根底から見直されることになったが、そのプロセスで、筆者は積極的に社会的発言を重ねてきた。一研究者に過ぎない筆者がそのような行動をとったのも、「希望学」に触発されたところが大きい。 東日本大震災後の釜石を訪れて目の当たりにしたことは、震災以前に「希望」をもってがんばっていた人びとが、震災後も「希望」をもって復興のためにがんばっている事実だ。これは、東日本大震災で被災したコミュニティ全体についてもあてはめることができ、震災以前に「希望」をもってがんばっていた地域が、震災後も「希望」をもって復興のためにがんばっている、と言えるのではないか。 そうであるとすれば、東日本大震災以前の時点で「希望学」釜石調査から見出した、 ①ローカル・アイデンティティ(地域らしさ)の再構築、 ②希望の共有、 ③地域内外でのネットワーク形成、 という3つの要素の大切さは、震災後の今も変らないことになる。また、「震災以前の釜石からのメッセージ」として本書で強調した、 (1)インフラ整備による外需の呼び込み、 (2)広域ブランドと結合した地域ブランドの確立、 (3)若い世代の参画とリスクテーカーの登場、および両者の連動、 という3点も、復興の過程で、いっそう大きな意味をもつことになる。震災以前も震災後も「希望の灯」がともる釜石からは、全国へ向けて、「革新に裏打ちされたまちづくり」ないし「革新に裏打ちされた復興」という、震災以前も震災後も同じメッセージが発信され続けている。 今、日本は、きわめて深刻な経済的低迷に直面している。その閉塞状況から脱却するためには、もとあったところへ戻る「復旧」をめざすだけでは決定的に不十分であり、もとあったところへも戻ることすらもできない。求められているのは、「革新に裏打ちされた日本再生」である。東日本大震災後も釜石から発信され続ける「革新に裏打ちされた復興」というメッセージを真摯に受けとめ、われわれ日本人は、「革新に裏打ちされた再生」を実現しなければならない。革新なくして、再生はありえないのである。 |