希望学とは

希望学とは(2016)

2005年に希望学(正式には「希望の社会科学」)が東京大学社会科学研究所に誕生してから10年以上の歳月が過ぎました。希望と社会の関係を考察するための新しい学問。それが希望学です。

日本では将来に「希望がない」「希望が持てない」という人が増えつつあるのではないか。そんな思いからスタートしたのが、希望学でした。残念ながらその懸念は、ますます現実のものとなっているようです。
社会科学研究所が、2007年に20~39歳だった人々に対して継続的に行っている「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」という調査があります。そこでは毎年「将来の自分の生活・仕事に希望があるか」をたずねてきました。すると、自分の生活や仕事に希望があると答える割合は、2007年に55%だったのがその後減り続け、最新の2014年調査では37%まで下がっているのです。
どうやら日本では、将来に希望を持てない人々が、確実に増え続けているようです。
さらに2014年秋から15年春に20~59歳を対象として、希望に関する調査をいくつかの国々で行いました。すると、将来実現してほしいこと・させたいことを意味する希望を持つ割合は、調査した日本以外の国々では8割から9割に達していました。それに対し日本では、仕事、家庭、健康など何がしかの希望を持つ割合は5割強にすぎませんでした。
なぜ日本では、希望が持てない人が、多くなっているのでしょうか。
これまでの希望学の研究からは、いくつかの事実が浮かび上がってきました。本来、生涯にわたって時間を多く保有する若者や、教育機会に恵まれてきた高学歴者、健康状態が良好な人ほど、希望が持ちやすいものです。高齢社会となり、高齢で健康が損なわれている人が多くなれば全体として希望は持ちにくくなります。貧困状態にある子どもが増え、十分な教育を受けられない人々が増えることも希望の喪失につながります。また社会から孤立し、孤独な状態にある人が増えることも、希望を持ちにくくします。
これらの問題に対して、社会に生きる誰もが希望を自分たちの手でつくりあげていくための道すじを、希望学は探し続けています。

希望学では、2006年から岩手県釜石市での実地調査を続けてきました。過去の津波や戦争、不況といった試練や挫折をどうやって新たな希望につなげてきたのかを学ぶために、釜石に足を運び続けてきました。
その釜石は2011年3月11日に、新しい試練にさらされることになりました。その試練に対して、市民はそれぞれの持ち場でお互いを信頼することで、希望の灯をたやさず、前に向かって自分たちの足で歩み出そうとしています。その道のりを釜石の人たちと共に歩み続けることが、希望学のもう一つの使命となりました。
2009年からは希望学福井調査も始まっています。その名のとおり、福井は「福のある井(人の集まる場所)」です。幸福を保ち続けると同時に、どうすれば新たな希望も創ることができるのかを、福井の人たちと考え続けています。
福井での調査からは、地域内での親密な交流を大事にしつつも、あわせて地域を超えた緩やかな繋がり(ウィークタイズ)を広げていくことが希望の創造につながることなどを確かめてきました。
釜石や福井にかぎらず、これからの地域が元気になるには、人口減少や経済衰退などにあきらめることなく、地域に希望を失わず活動を続ける「希望活動人口」がカギを握ると、希望学では考えています。これからも日本や世界の地域で活躍する希望活動人口に、希望学は注目していきます。

希望学は、開始以来、多くの方々から励ましや期待をいただいてきました。特に東日本大震災後には「これから希望学がますます大事になりますね」と応援していただくことも多々ありました。
私たちは希望学の歩みを止めません。ゆっくりであっても、あせらず一歩ずつ前に進んでいこうと思います。
これからも希望学をよろしくお願いします。

(これまでの希望学の活動については「希望学の成果」「希望学関連記事・書籍」などをご覧ください。)

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