【平島 健司】 先進国における国家変容—日独比較の視点— →【討論】
3.日本を含む比較の問題性
もちろん、「比較」には困難が伴う。まず、対外的与件の変化はそれぞれの国ごとに異なる。国際化やグローバル化の影響は、経済的側面に限定した場合でも、各国のセクターに応じて異なるだろう。例えば、大量の資本移動が及ぼす影響は、各国の金融制度や政策によって差が生まれるだろう。また、対内的与件としての高齢化・少子化は、先進国社会に共通の趨勢であるとしても、そのテンポは異なる。さらに、国家統一の課題やバブル経済とその崩壊は、ドイツと日本にとって固有の大きな変動要因であった。
環境の変化に対して、具体的に政策が選択される過程では、政策主体による状況の認識と問題の定義、取りうる選択肢の幅や現状の制度がもつ慣性(受益者の抵抗)などが大きな意味を持つ。対外的にも、ドイツの場合は、EUによって深く規定されてきているし、戦後の日米同盟関係の中で形成されてきたアメリカの影響は、「外圧」として日本の国内政治にビルトインされているともいえよう。一般的には「歴史的制度論」が言うように、各国の制度編成には、過去の政策的対応が構造化されており、政策選択肢は常に限定されている。あるいは、政策主体の選好さえもが、各国に蓄積された制度的条件によって深く規定されている場合もあるだろう。したがって、先進国の政策的対応に相違があったとしても、そのような相違をもたらす要因をつきとめる上では、慎重な比較考察が求められることになる。
このような意味では、すべての先進国は、独自の課題に対して固有の対応を続けていかねばならない。しかし、日本の国家が、過去20年間に積み重ねてきた改革によってどのように変容してきたのか、また、変革の戦略的可能性がどこにあるのかについては、さまざまな角度から他の先進国の経験を比較観察することなしには理解しえないだろう。日本の経験を相対化する視角を得るために、過去20年間におけるドイツの国家変容を概観してみたい。
<平島健司>
|