【中村 圭介】 労働をめぐる混迷 →【討論】
III.HRM・規制緩和は本当に合理的か?
「非正社員化」については、仕事の配分の仕方や非正社員の管理の問題が発生し、かえって効率性を低下させはしないかという疑問が生じる。また臨時雇用やパート、派遣社員、契約社員の活用は、短期的にコスト削減に成果があがったにせよ、基幹社員がルーティンワークまで負担し、残った社員の負担が増加するなど、必ずしも効率化には結びつかないのではないか。
「即戦力・雇用の流動化」については、「即戦力」というのは本当にいるのかという疑問も生じる。それぞれの企業ごとに独自のやりかたがあって、それを学んでもらった後に、「流動化」されたら企業にとっては困るのではないか。「中途採用」は、これまで不足している職種を補うために新規事業や中小企業でなされてきた。しかし、そのことと「流動化」とは違う。
「ダウンサイジング」については、希望退職に伴うコスト、残った社員のモラールダウン、企業にとって残って欲しい人がやめていくなど、はたしてコストに見合う合理的なダウンサイジングが行われているのかという疑問が生じる。
「成果主義的報酬制度」については、管理者は大変であり、個人個人の目標を定めて、中間レビューして、最終決定を下し、フィードバックするということを一人一人やっていくことが、果たしてコスト・パフォーマンスがよいのかという疑問が生じる。
Jeffery Pfeffer, The Human Equation,1998、佐藤洋一(監訳)『人材を生かす企業——経営者はなぜ社員を大切にしないのか?』では、多くの企業が従業員の存在を無視して、競争に勝つための戦略ばかり気を取られていることに批判が向けられ、ダウンサイジング、アウトソーシング、リストラのように人件費を切り詰めるやりかたは、結果的に企業文化を弱体化させていると述べられている。そして米国流の雇用形態を他の国が学ぶ際には注意が必要であると述べられている。
むしろ組織力重視や人材管理、社員教育など人材重視の企業のほうが存続率は高く、雇用保障が企業経営に与えている影響は大きい。
ダウンサイジングは無計画な成り行きで行われており、臨時雇用の影響をほとんど調査していない。評価したとしても労働コストだけであり、労働の質、生産性、顧客との関係などの影響にはほとんど注意を払っていない。
<記録:渋谷謙次郎>
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