【中村 圭介・樋渡 展洋】 第4回プロジェクト・セミナー
討論
両氏の報告後、次のような討論がなされた。
まず、中村氏の報告について、日本の雇用環境は、単に合理的であるというのみならず、もう少し濃淡があるのではないかという質問に対し、中村氏は、濃淡があるのは重々承知しているが、日本企業の一番いい部分が外圧によって変えられて元に戻らなくなるのではないか、例えばトヨタのホワイトカラーや研究開発をしている人達に業績報酬制度や業績主義的な管理制度を導入してうまくいくのであろうか、と答えた。
樋渡氏の報告について、80年代に新古典派が優位になったことで、無理に有効需要を刺激するよりもむしろ市場のメカニズムが働くように通貨価値の安定や為替の安定を目指すようになったと思うがそれについては、どう思うかとの質問に対し、樋渡氏は、問題関心はインフレ対策をとったとしても、その導入の時期と程度に諸国に違いがあるのはなぜか、国によっては英米のような政策をとっていないのはなぜかということであると答えた。またサッチャーのように産業界の反対に遭い有力な社会集団に背を向けてまでマネーサプライをコントロールし金利を上げるなどの政策をとったのはなぜかということに興味関心があると述べた。
中村氏の報告について、次に、新しい労務管理が求められているということと、既存のいいところを尊重しなければならないという、それぞれのウェイトの問題をどう考えていくのかという質問に対し、中村氏は、対応策が労務管理を変えていくことでしかできないというのが今の状況であるが、本来ならば労務管理だけでなく原価管理をどうするのか、生産管理をどうするのかというトータルな話として出てこなければならず、労務管理にだけ着目するのではなくホワイトカラーで言えば業務管理やコスト管理がきちんと行われているのだろうかということを確かめてみたいと答えた。
樋渡氏の報告について、次に、国によって政策ととりかたびズレがあるということについて、それぞれの国の経済パフォーマンスの違いによって説明規定されているのであろうが、大きくみれば、ある時期に成功した経済システムが、世界的条件が変わって、うまくいかなくなって別の経済システムがうまくいくようになったのかということについてどう思うのかという質問が出た。樋渡氏は、イギリスではサッチャーになって新自由主義的な政策を、その受益者を動員することで徹底させていくが、その徹底の仕方はフランスやイタリアではみられず、仏・伊では国内の政策を実施するにあたって外的な力つまりマルクのペッグによる国内のインフレ規律を指向するようになり、日本ではインフレの問題にはならず、イギリスのように内発的に新自由政策をとったアメリカが日本の円高と内需拡大を要求し、日本もそれにある程度応じられたことが、日本国内の賃金決定政策と金融財政当局の自律性という(ドイツと同様)独特の制度を強化することになった、と答えた。
引き続き樋渡氏の報告に関して、各国の経済パフォーマンスの違いを労働市場や熟練形成に結び付けて考えることにも十分な意味があるのではないかということや、デモグラフィックなファクターも重要ではないかということ、利益集団の分かれ方がどうなっているのかといった、コメントおよび質問が出た。樋渡氏は、サッチャーのように中産階級を新自由主義的政策の受益者とすることで動員し亀裂を固定化させるが、フランスやイタリアでは、政策としてはある程度の一貫性をもたせるが、政党は固定的な支持層を動員しづらく、政党の連合を組替えるという政策のパターンが定着し、国によっては利害対立が作られにくいということが国際政治的な位置付けによっているのではないかと答えた。
最後に司会者は、樋渡氏が社会階層の利害対立にまで降りて議論しようとすることによって、中村氏は個別企業の管理の仕組みにターゲットを設定することによって日本の社会のあり方を展望しようとしたところに、相互の交叉する点を見出した。
<文責:渋谷謙次郎>
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