【加瀬 和俊】 グローバリゼーション下の農業・食糧問題—国民国家と国際調整— →【討論】
III.海洋法と漁業問題
漁業問題は、農業のように生産の場が国内にあるものと違って、生産の場自体をめぐって国際調整が必要であるという性格から、国民国家の利益が貫徹するケース、国際機関の理念がそれを押さえるケース、理念と理念のぶつかり合いや国民国家同士の利害の衝突など、国民国家と国際機関の間の問題が、一層クリアに出ている。
国連海洋法の発効過程において様々な問題が起こっている。漁業専管水域は当初は領海と一致した3カイリ(次いで12カイリ)であったが、1977年にカナダ・アメリカが200カイリの専管水域を領海とは別に設定したことによって、これが国際的に定着した。更にアメリカの海底資源の開発権の主張やカナダの高度回遊性の魚に関する公海上の権利主張等々を入れるかたちで、海洋法が付属条約をつけて締結され、漁業については沿岸国の国民国家的利害が貫徹する結果となっている。また沿岸国の管轄権と合わせて設定された漁獲許容量(TAC)の余剰配分義務についても、実際の自国漁獲量でなく可能な目標量という考え方で、配分をせずに国民国家によって資源を囲い込む方向への理念の転換が行われた。
また、普遍的理念を使って個別の国民国家的利害が主張される例もあり、自然生物保護論を使って商業捕鯨の禁止、公海流し網禁止がなされた。 他方アメリカはテキサス・エビ漁業保護のため、混獲されやすいウミガメの保護をうたってエビ輸入禁止措置を継続し、オーストラリアは自国のサケ養殖保護のためにカナダ・サケの輸入禁止を行ってきた。しかしWTOの場でアメリカもオーストラリアも敗北した。前者は自由貿易の理念と自然生物保護の理念がぶつかりあい、ヘゲモニー国家の利益が貫徹しなかった事例である。
以上の事象に現れているのは、国内的にも国際調整の場でも自由貿易という大枠がはめられていて、それにプラスやマイナスになる様々な理念が働くこと、しかし現実は利害のぶつかりあいがあり、国民国家の利害が貫徹する場合もあれば、それとは逆方向の決定を見る事例もあること、などである。
<記録:土田とも子>
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