セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第18回プロジェクト・セミナー
原子力発電とエネルギーセキュリティ→【討論】

2000年5月23日 ◆於:社研大会議室
報告:鈴木 達治郎

第18回プロジェクトセミナーでは鈴木達治郎氏から報告がなされた。

I

II

III

IV

V

 次に国産エネルギーといわれるプルトニウムはエネルギー安全保障に貢献できるか、について検証したい。

 国産エネルギーの虚構として3つのパラドックスを挙げてみた。

  1. パラドックス1
     プルトニウムが核兵器の材料である歴然たる事実がある以上、プルトニウムを利用すればするほど国際政治の厳しい規制がつきまとう。利用の規模が大きくなるほど、ラニングストックもたまっていく中で、今や日本にはプルトニウムのストックが30tもある。そしてその管理にはかなりの厳しさが要求されている。 実際には計量管理技術がどんなに発達しても1%の誤差は出るのはやむ得ないため、封じ込めと言って周りを防護施設で封じ、中から出ていないことを証明し、軍事に転用していない証としている。プルトニウムは国際政治上、とても機微な物質のひとつでなのである。

  2. パラドックス2
     プルトニウムはFBRで燃やせば、原子力エネルギーは無尽蔵の国産エネルギーとなることから、FBRで使うことによって初めて意義がある。軽水炉で燃やすと、100万kwの原子炉で燃やした場合、500kgのプルトニウムが300kgに減ってしまう。エネルギーー資源を無駄使いしているとも考えられる。
     長期的にはプルトニウムを使用済み燃料のまま貯蔵しておいて、FBRの実用化に必要な時に回収するのがもっとも効果的である。

  3. パラドックス3
     100万kw級の原子炉から生成される毎年200kg近いプルトニウムは、Pu239の比率が60%程度の質の悪いプルトニウムであるが、核燃料の材料として使用可能であることが知られてきた。おまけに最近個人の所有するラップトップ型のコンピューターで60,70年代のアメリカのスーパーコンピューターより正確に計算ができるようになった。平和利用拡大に伴い、在庫量が拡大するが、「これは全ていずれ燃料として用いられるものであり、核拡散リスクを増大させるものではない」という考えは通用しなくなっている。
     核軍縮・核不拡散のためには、プルトニウム在庫量を減少させる努力が必要となっている。

 以上、プルトニウムに関するパラドックスを考えれば、プルトニウムが日本の国産エネルギーとして安全保障に大きく貢献するという論理は、見直さざるを得ないことが明らかである。では何故、原子力は良いのか、一般的に言われるのはウランの供給安定性である。つまり価格変動が少ない。

 また、どのエネルギーが信頼性、経済性、環境保全面で有利になるかは不透明である、という前提に立ち、供給源の多様化で安全保障度を高めるという考えに基づく指標においては、日本は石油のシェアが54%である一次エネルギーについては石油の依存度が高すぎるが、電力だけで見ると、原子力30%、石炭18%、天然ガス20%、石油23%、水力10%とバランスよく、多様性としては優秀である。一方フランスは電力での原子力のシェアが77%と高く、多様性の意味からはバランスが良くないと言える。

 また、温暖化については原子力はCO2を放出しない非化石燃料として温暖化ガス削減の切り札的存在に位置づけられている。そのためエネルギー政策としてコントロールしやすい原子力を増やす事によってCO2の値を減らすことがなされてきた。しかし現状を考えると最も伸びが顕著な輸送部門を抑えるのが難しいため、輸送部門はその点でも石油に代わる燃料の多様性についての検討が望まれる。

 経済性については(図4、5参照)既存の発電所の発電コストは資本費の原価償却が終わっていくので年々安くなると考えられる。現在7円/kwhくらいで、そのうちサイクル燃料費が2円少し、再処理コストは2010年には1円以上になることが予想され、これは懸念の材料となっている。

廃棄物問題について
 再処理工場からは高レベル廃棄物(地下500m〜1000mの地層処分、何万年単位)や中レベル廃棄物(何千年単位、処分についてはっきり決まっていない)が排出され、ウランの濃縮加工工場からは量的に多い使い古したウラン、低レベル廃棄物(内容は服やフィルター等、青森県六ヶ所村に貯蔵)が排出され、原子炉からも低レベル廃棄物等が排出される。また、サイクルのどこかが止まっても、あふれ出る物質もある。

 このように、計算上は理想的な核燃料サイクルであるが、いったん回りだすと、システムが巨大、複雑になりサイクルが動けば動くほど廃棄物はさまざまな所から多様にわたって排出される。その処分に関しても、その対策が十分に練られていないのが現状である。そしてそこで起こる事故がどんなに小さいものだとしても、それが及ぼす影響は測り知れない。海外では使用済み燃料はすべて廃棄物とみなされている。

 今後の対処としてはどこかに何が起きても大丈夫なように、逃げ道を作っておくことが大切である。例えば、地下に入れても回収可能な地層処理という案もある。

<記録:中島美鈴>