研究目的 | |
1990年代に入って中国の経済改革は、みずからを「社会主義市場経済」と定義することにより、改革の方向を一層明確にした。これによって80年代以降進められてきた「改革・開放」政策は、国内経済体制の改革については市場経済への移行、対外開放についてはWTO加盟に象徴される国際市場への参入という、新しい段階に進んだ。 国内経済改革のカナメでもあり、同時に最も困難な課題となっている国有企業改革は、90年代初頭に株式制度を導入することによって停滞を打破することが期待されたが、現在もなおはかばかしい成果をあげることができていない。いうまでもなく国有企業改革の中心課題は、行政と企業(経済)との関係を、社会主義市場経済という新たな枠組みの中で、いかに再構築するかという問題である。93年の会社法によって制度化された株式制公司は、両者の関係を財産関係に還元することにより、一層徹底した両者の分離を実現しようとしたものであるが、現在のところその実態に大きな変化はない。 本研究ではまず、株式制公司に改組された国有企業について、会社法に規定されたコーポレート・ガバナンスの実態を調査することにより、企業改革が直面している現状の問題点を摘出することを目指す。この調査によって明らかにされる問題点は、企業改革のみならず、市場経済への移行期にあるとみなされる中国経済全体にとって、すぐれて本質的な問題を提起していると考えられる。 なぜなら、企業改革にとっての中心的課題である行政と経済との関係の再構築は、市場経済化の柱とされる契約法(99年)においても等しく問題とされており、そこでは法制度=市場経済、実態=社会主義というような乖離現象が、部分的とはいえ、契約制度の重要な分野で顕著な傾向となりつつある。これは明らかに社会主義市場経済そのものの本質に存在する矛盾の集約的表現にほかならないが、こうした現象が急激な改革の過程における一過性のものであるか否かについては、多面的な検討が不可欠である。これら関連する分野の問題については、現実的な制約もあるため、とりわけ重要と考えられるいくつかの個別具体的な問題を取り上げ、できるだけ実態調査をふまえた分析を行いたい。 本研究は、このように90年代における中国の改革の過程を、国有企業におけるコーポレート・ガバナンスの導入過程を中心に、経済、法律など多様な側面から、東京大学社会科学研究所および中国社会科学院のメンバーを中心とする共同研究によって分析しようとするものである。中国の経済改革をテーマとする研究は、わが国の内外において枚挙に暇がないほど活発であり、また多方面からの関心を集めている。しかし、それらの大半は中国側が示した統計や、中国側の研究に依拠した2次的な資料にもとづくものであり、現地調査を実施したまれな場合も、地域的、時間的にきわめて限定されたものでしかない。 本研究は、中国を代表する研究機関である社会科学院との共同研究体制をとることによって、現地調査にかかわる優位な条件を獲得している。すでに2度にわたって科学研究費の助成を受けたことにより、継続的な調査を実施することができた。 本研究は対象を中国に限定しているが、研究課題である「移行経済体制」の分析は中国に限られるテーマではないし、21世紀の世界経済を展望する際には、不可欠の要素でもある。 |
代表:田中信行 渋谷博史,田島俊雄,丸川知雄,國谷知史(新潟大学法学部),李捷生(大阪市立大学経済研究所),王東明(摂南大学国際言語文化学部),袁鋼明(中国社会科学院経済研究所),李黎明(北京大学法学院) |