--MESSAGE9--  (2002/1/22)
東京大学社会科学研究所の末廣です。
ご無沙汰しておりました。今年もどうかよろしくお願いします。
さて少し最近の動きをご紹介させていただきます。
(1)私たちの「自由化と危機の国際比較」研究会では、㈰自由化の政治経済的分析、㈪自由化と危機に対する企業の行動(コーポレート・ガバナンス、国営企業・国有企業の民営化、グローバル化と企業改革)、㈫社会保障制度もしくは生活保障システムの3つを主たるテーマとして取り組んできました。その成果の一端は、東京大学社会科学研究所の『ISS Research Series No.1 自由化・経済危機・社会再構築の国際比較:アジア、ラテンアメリカ、ロシア/東欧—第1部 論点と視角』として、昨年の12月に刊行いたしました。現物を増し刷りしましたので、ご関心の方は、「Discussion Paper」のところを開いていただき、土田さんに連絡をとってください。

(2)研究会は3つのテーマを抱えていますが、東京大学社会科学研究所内部で3名が研究会の運営について分担する体制を、昨年末からとるようにしました。㈰コーポレート・ガバナンスや企業改革は末廣昭が、㈪国営企業・国有企業の民営化に関する比較研究は東京大学社会科学研究所の丸川知雄が、㈫社会保障制度・生活保障システムの比較研究は同研究所助手の上村泰裕がそれぞれ担当し、今後、随時研究会を企画していく予定です。みなさまのご協力をお願いします。また、ご報告や研究会への参加は随時受け付ける「オープン・システム」をとっていますので、ご関心のある方は、それぞれの担当者にご連絡ください。
なお、末廣昭が担当する「コーポレート・ガバナンス、企業改革」は、この研究会の協力者である日本貿易振興会アジア経済研究所の星野妙子氏が2002年度から2年プロジェクトとして発足させる「開発途上国のファミリービジネス」研究会に末廣がジョイントすることになり、主にそちらで議論を展開していこうと考えています。アングロ・アメリカ流の「グッド・コーポレート・ガバナンス」概念とそのガイドライン(社外重役の任命、独立の監査委員会・役員報酬委員会の新設、少数株主の権利保護、グループ内企業間取引の制限など)は、すでに東・東南アジア諸国では、通貨危機後、世界銀行の指導でほぼ制度的法的整備が終わっていますが、実態は文字通り「龍頭蛇尾」であり、改めてアジア諸国の現実世界に即した企業改革の包括的なアプローチの必要性が議論されています。その意味で、星野氏が企画している「ファミリービジネス」研究会はきわめて興味深く、共同研究会の成果は随時、このホームページにも掲載していきたいと思っています。

(3)2001年9月に外務省と日本国際問題研究所の合同研究会として発足しました「東アジアと中南米の持続的な経済発展の経験と課題」研究会は、都合4回の研究会を開催し、12月25日に末廣と東京大学大学院総合文化研究科の恒川惠市氏がそれぞれ最終報告を行って、研究会を終了しました。この研究会は、神戸大学の細野昭雄氏を座長とし、制度改革を末廣と恒川氏が、貧困緩和問題を法政大学の絵所秀紀氏と拓殖大学の柳原透氏が、企業・中小企業を日本総研の竹内順子氏が、IT産業をアジア経済研究所の加賀美充祥がそれぞれ分担し、2002年1月末に英文による報告書が、日本国際問題研究所から刊行される予定です。刊行されましたら、追ってご連絡いたします。なお、12月25日の最終研究会では、小和田理事長ほか、民間企業のスタッフも多数参加し、東アジアとラテンアメリカの自由化・危機・経済改革の共通点と相違点について、きわめて活発な議論がなされました。この研究会の議論は、私たちの研究会にも示唆するところが大でありますので、のちその論点をご紹介したいと思います。

(4)「コーポレート・ガバナンス、企業改革」については、2002年4月・5月頃に、2つの本がアジア経済研究所から刊行される予定です。ひとつめは、星野妙子編の『開発途上国の企業とグローバル化』で、メキシコ、ブラジル、チリ、ベネズエラ、台湾、韓国、中国の、経済グローバル化・自由化・経済危機後の企業の対応・再編を、地場企業を中心に「勝ち組・負け組」に分け、「勝ち組」はなにゆえに存続することができたのか、地域研究者が事例研究にもとづいてまとめたものです。ご関心の方は、星野氏に連絡をとってください。
 ふたつめは、末廣昭編の『タイの制度改革と企業再編』で、通貨・経済危機後のタイにおける企業債務再構築のスキーム(いわゆるバンコク・アプローチ)、企業破産法による債務再構築の実態、証券市場改革と主要地場企業の対応、「1992年公開株式会社法」の2001年改訂に至る経緯とその挫折、金融制度改革と金融コングロマリットの解体、危機後の企業ファイナンスの変化とその実態、小売業における外資の急速な進出と地場大手財閥の対応、危機の前と後とのタイ上場企業の所有と経営の変化など、詳細な事例研究にもとづく報告書です。IMF・世界銀行の政策の単なる要約や、英語文献の紹介、本人の短期調査の印象記録ばかり先行しているのが、日本のアジア研究の現状ですが、本書はアジア諸国の「経済改革」の実態について、タイを事例に、制度改革・産業の再編・個別企業の経営改革という3つの問題を統一的に捉え直そうとした本格的な実証研究です。こちらについては、末廣にご連絡ください。

(5)最後にお願いです。先に述べましたように、私たちは最初の試みとして『ISS Research Series No.1 自由化・経済危機・社会再構築の国際比較:アジア、ラテンアメリカ、ロシア/東欧—第1部 論点と視角』を刊行しました。この報告書に収録した各論文について、どのような形でも結構ですので、みなさまのご意見、コメントを「なんでもポケット」に投稿してください。情報や議論の一方的な発信ではどうしても議論が停滞します。とくに市場経済移行国研究者からの積極的な発言をお待ちしています。さまざまな意見やコメントを紹介し、それを共同研究のさらなる発展につなげていきたいと考えていますので、ぜひご協力をお願いします。よろしく。