研究計画と方法 自由化と危機の国際比較 トップ自由化と危機の国際比較 トップ


(1)過去の研究会の準備状況

*2000年4月、Laszlo Szamuely(ハンガリー科学アカデミー世界経済研究所元教授)Tadeusz Kowalik(ポーランド科学アカデミー経済研究所教授)による報告会

*同年6月、拓殖大学の小池洋一氏(ラテンアメリカの自由化)、アジア経済研究所の浜口伸朗氏(ラテンアメリカの医療保険制度)、同研究所の宇佐見耕一氏(アルゼンチンの社会保障制度)による報告会

*同年9月、東京大学社会科学研究所シンポジウム「開発と市場移行のマネージメント」を共催。グローバリゼーション、自由化、企業ガバナンス、ソーシャルセイフティネットの4つのセッションで報告とコメント(『社会科学研究』第52巻第5号、2001年3月の特集号を参照)

*同年10月、タイ・チュラーロンコン大学経済学部のパースック・ポンパイチット氏とクリス・ベイカー氏による汚職と政治改革、民主化と2001年総選挙に関する報告会

*2001年1月、アジア経済研究所主催の国際ワークショップ「ラテンアメリカの経済グローバル化と企業の対応」に末廣昭氏が参加、コメントを行なう

*同年2月、ブラジル・リオデジャネイロで「開発と市場移行のマネージメント」の第2回国際ワークショップを共催。主要9カ国の「クロノロジー」を作成

*同年3月、アジア開発銀行研究所(ADBI)主催の国際専門家ワークショップ「アジアのファミリービジネスと企業ガバナンス」にて、末廣昭氏が基調報告

*同年5月、2001年度第1回研究会。上村泰裕氏による「アジアの社会政策」に関する報告会

*同年6月、2001年度第2回研究会。タイ、サイアムセメント社マヌーン氏、キッティ氏による同社の機構改革に関する報告会

*同年6月、2001年度第3回研究会。末廣昭氏による「自由化と危機の国際比較研究:アジアの観点から」についての報告会

*同年6月、2001年度第4回研究会(スタッフセミナーと合同)。丸川知雄氏による「国営企業の民営化:ロシア、中国、ベトナム」についての報告会
(2001年度の4回の研究会の報告と討論の記録は、ホームページのセミナー記録を参照)

(2)共通テーマの設定と相互乗り入れ方式
 この研究会では、毎回地域横断的な共通のテーマを設定し、それをめぐって特定国・地域の研究者が報告を行ない、他の地域の研究者がコメントをするという、地域を超えた相互乗り入れ方式の自由な議論を重視する。例えば、ラテンアメリカの国営企業の民営化の報告に対して東南アジアやロシア・東欧の研究者がコメントしたり、アジアの社会政策に関する報告に対してラテンアメリカの研究者がコメントする。その議論のプロセスを記録に残し、ホームページ上で公開したり、報告書シリーズとして公表する。

(3)知識と情報の共有化

 ラテンアメリカ研究者による東アジアとの比較はこれまで行なわれているが、一般に3地域の地域研究者のあいだでの交流や共同研究の経験は、日本のなかではきわめて少ないのが現状である。そこで次のような4つの方法をとることで知識と情報の共有化を図ることとする。
 第1は、「共通の問題」についての概念や意義付けの検討とその相互比較を行なうこと。例えば、「ガバナンス」概念ひとつをとっても、そこには企業のガバナンス、政府のガバナンス、社会のガバナンスなど、多様な使い方があり、企業ガバナンスもアングロアメリカ流とは別に、各国・地域で独自の意味付けを行なっている場合もある。同様に、国営企業の民営化(privatization)、株式会社化(corporatization)についても、その初期条件、背景、目的、プロセス、帰結には国・地域ごとに大きな違いがある。こうした違いをまず現地のコンテキストや現地用語のニュアンスを大切にして検討し、地域の特徴を明らかにすると同時に、地域を超えた認識枠組の構築につとめる。
 第2は、関連するテーマについて、各国・地域ですでになされてきた研究の文献目録の作成と論点の整理を行なうこと。とくに重要な文献については地域を超えた検討が必要となる。
 第3は、経済自由化と危機に関する「クロノロジー」を国別に比較可能な形で作成すること。貿易、金融、資本取引、直接投資、労働市場、民営化、地域協力に関する政策年表を作成すると同時に、IMFや世界銀行といった国際金融機関が、いつ、どのようなテーマについて経済調査団を派遣し、いかなる提言を行なってきたのか、あるいはIMFの救済融資や世界銀行の構造調整融資を受けるにあたって、どのようなコンディショナリティを受け入れたのかについて、比較可能な年表を作成する。
 第4は、国際金融、企業活動、社会政策などについて各国・地域ごとの比較可能な統計データを整備すること。例えば、社会政策・社会保障制度を比較するためには、政府の財政支出にしめる社会関係支出の比率を比較することが有用であるが、社会関係支出の範囲なり定義は各国・地域において異なる。統計データのカテゴリーの再検討も含めて、基本データの収集と整理を行なう。
以上の4つの作業を通じて、共同研究に参加する研究者間が3地域についてできるかぎり共通の知識と情報を共有するように努め、その上で論点の整理を進めていく。

(4)研究会の進め方・ホームページの活用

 原則としてオープン形式の報告会やミニシンポ、泊まり込み形式の討論会を開催し、問題に関心のある研究者は自由に議論に参加できる体制をとる。したがって当面は、メンバーを固定して研究書を作成することを目的とせず、議論のプロセスをホームページ上に公開したり、報告書のかたちで刊行する方法をとる。これは研究者のネットワークの構築をより重視する私たちの意図とも関係している。
 研究会は5年間をひとつのめどとし、向こう2年間は政策年表の作成や統計データの整備、報告書シリーズの刊行などに重点を置く。その上で、特定の研究テーマについて研究者のあいだで合意ができれば、その成果を本の形で刊行するための研究会に再編していく。研究会の持ちかた、組織化についてはできるだけフレキシブルな姿勢をとりたい。