アジア経済研究所 星野妙子主査
東京大学社会科学研究所「自由化と危機の国際比較研究班」共催
主査星野妙子 (アジア経済研究所)
Email:hosino@ide.go.jp(担当国)
メキシコ 幹事北野浩一(アジア経済研究所) チリ 内部委員坂口安紀(アジア経済研究所) ベネズエラ 川上桃子(アジア経済研究所) 台湾 外部委員小池洋一(拓殖大学国際開発学部) ブラジル 末廣昭(東京大学社会科学研究所) タイ 竹内恒理(筑波国際大学産業社会学部) アルゼンチン オブザーバー佐藤百合(アジア経済研究所) インドネシア 安倍 誠(アジア経済研究所) 韓国 東 茂樹(アジア経済研究所) タイ 渡邉真理子(アジア経済研究所) 中国 近田亮平(アジア経済研究所) 日本 中村尚史(東京大学社会科学研究所) 日本
(1)背景・妥当性
開発途上国企業の特徴を語る上で「ファミリー」への言及は欠かせない。規模の大小を問わず、また株式の公開・非公開を問わず、一般に開発途上国企業においては、支配的なオーナー・ファミリーの意向・利害が経営に色濃く反映されている。開発途上国の民族系大企業グループがしばしば「財閥」と称されるのも、そのような同族支配の特徴による。本研究課題ではオーナー・ファミリーの強い影響力のもとにある企業を「ファミリービジネス」ととらえ、開発途上国のファミリービジネスの実態究明を試みる。
1997年のアジア通貨危機においては、民族系大企業グループの無謀な拡大路線が危機発生の重要な要因となり、同族支配の弊害が喧伝された。そのためアジアでは企業改革は危機後の経済改革の重要な柱となった。一方、ラテンアメリカでは過去20年間に3度の深刻な経済危機(1982年、1994年、1997年)に見舞われたが、経済危機におけるファミリービジネスの役割が明示的ではなかったために、同族支配は批判の対象とならず、民間企業の改革が政策課題となることもなかった。
経済危機の元凶としてふたつの地域におけるファミリービジネスの異なる評価、ファミリービジネスに対する政府の異なる政策的対応は、我々に次のような疑問を投げかけている。果たしてアジアで言われるように、ファミリービジネスは企業として不合理、非効率な存在なのだろうか?果たしてラテンアメリカで言われるように、度重なる経済危機にもかかわらずファミリービジネスに変化はなかったのだろうか? 本課題はこのような問題関心のもとに、以下に述べるようなファミリービジネスに関わる重要論点を明らかにすることを目的としている。
(2)目 的
本課題は、第1に経済危機を契機とする開発途上国のファミリービジネスの変化、第2にファミリービジネスの所有・経営の特徴とその企業行動に及ぼす影響、第3にファミリービジネスの存続を支える諸条件、以上の諸点を実証的に解明することを目的としている。
1980年代以降、開発途上国企業は経済グローバル化と経済危機を契機とする構造改革の影響を大きく受けてきた。輸入品、外国企業との競争は激化し、また、企業に対する所有・経営両面での公開の圧力は日増しに強まっている。そのような環境下においてもファミリービジネスは安泰なのであろうか。そこで、第1の検討課題として、ファミリービジネスの過去20年の変化を、次の二つの側面について究明する。第1に、経済における重要性の変化である。各国についてファミリービジネスと想定される主要企業を析出し、1980年代以降の事業の変遷を辿り、ファミリービジネスの事業領域の縮小・拡大を検証する。第2の側面として、ファミリービジネスの「ファミリー度」の変化の検証である。所有・経営面での公開の圧力は、企業の所有構造、経営構造にどのような影響を及ぼしているのであろうか。ファミリービジネスと想定される主要企業について、株式所有の構造と重役会・主要経営ポストの構成を分析し、所有と経営の分離の状況を検証する。
第2の検討課題は同族支配のメカニズムと同族支配の企業行動への影響の解明である。仮にファミリービジネスの所有・経営面での閉鎖性が緩和されたにも関わらず同族支配が揺らいでいないとしたら、どのようなメカニズムによりそれが可能となっているのであろうか。この点を、経営組織のヒエラルキー構造、権限の配分、最終決定権の所在等、コーポレート・ガバナンスの特徴の分析により明らかにする。一方、ファミリービジネスでありながら、実態的には経営破綻する企業もあれば、急成長を遂げる企業もある。この点に注目して、同族支配が企業行動や企業業績にどう関わるのか、実証的に検討する。
第3の検討課題はファミリービジネスの存続を支える諸条件の解明である。何世代にわたり、また近年の企業間競争の激化にもかかわらずファミリービジネスが存続を続けているとすれば、存続を支える制度的条件が存在すると想定される。そのような条件とは何なのかを明らかにする。
(3)方 法 論
通説に従えば開発途上国の民族系企業の多くはファミリービジネスということになる。資料的な制約を考慮し、本課題では分析対象を大手企業に限定する。研究対象国はラテンアメリカのメキシコ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、ベネズエラの5カ国、アジアの台湾、タイの2カ国(地域)、計7カ国(地域)である。上記の第1、第2の点については、企業の所有、経営に関わる資料を収集し、それぞれに述べたような目的に沿って分析を行う。第3の点については、極めて多様な制度がファミリービジネスの存続を支えていると考えられるが、さしあたり会社制度、家族制度、税制度を検討対象とし、それぞれの特徴の中にファミリービジネスの存続の条件を探る。必要に応じて上記以外の制度も検討対象に含める。
It is quite common in enterprises of developing countries that management is firmly controlled by dominant owner families and exceedingly reflects their family interest. We regard these enterprises as "family business" and study recent changes and the mechanism of subsistence of family businesses in seven Asian and Latin American countries. Followings are main issues we focus: How have changed the business domain and the ownership structure of major family businesses under the competitive condition of the globalization and the economic reform? What is the characteristic of corporate governance of major family businesses and how does this characteristic affect their business performance? What kinds of system, such as systems on family, on corporation, on tax, etc., do support the subsistence of family businesses? This is the first year of two years project on family business in developing countries. As a product of the first year we will edit Research Guide on Family Business (in Japanese) on 7 countries we study. The Research Guide will include the profiles of principal business families and major systems that support family business.