セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第21回プロジェクト・セミナー
韓国の企業ガバナンス

2000年7月18日 ◆於:社研大会議室  ◆司会:末廣 昭
報告:高龍秀(コ・ヨンス)甲南大学経済学部教授
コメンテーター:星野妙子(アジア経済研究所)、橘川武郎

以下は第21回プロジェクトセミナーの議論の概要である。

高龍秀】  韓国の企業ガバナンス →【コメント及び討論】

I


     【報告】

通貨危機の最中に政権交代があり、金大中政権が発足しました。この2年半の過程でかなり劇的な改革が進められている。その中でも、財閥改革について報告してみたい。
金大中政権下での財閥改革は大きく三点に分けることができる。まず第一に、財閥はあまりにも負債比率が高かったわけだが(400%台)、その負債比率を99年末までに200%以下にしなさいということを政府が要求した。これは基本的には、数値の上では達成された状況になっている。
四大財閥は負債比率が400%以下になり、かなりリストラを進めた。ところがこの2年間の改革の過程で中堅以下の財閥が、のきなみ破綻あるいは大規模なリストラを実施せざるを得ないという状況にある。そういう中で、逆に30大財閥に占める4大財閥の比率が上昇する、独占・集中度がかなり高くなる。
第二に、韓国の財閥があまりにも過剰多角化したため、それを解消するためのビックディール(大規模事業交換)と呼ばれる政策が求められた。半導体、鉄道車両、精油、発電設備、船舶用エンジン、航空機の6部門では、産業の集約、事業交換が財閥間で行われた。石油化学、自動車、電子の部門ではビックディールが難航している。
この二つの改革については、数字の上で一定の成果を出しているのではないかと思う。
残された課題は、第三に、内部ガバナンスの問題である。これは、冒頭でいった、コーポレイト・ガバナンスの二番目の問題になる。韓国の財閥の内部ガバナンスの特徴について、通貨危機以前の特徴をみておきたい。
まず、韓国財閥の株式所有においては、総帥一族と系列会社による内部所有比率が高く、総帥が所有支配しているということである。経営権防衛のために内部所有比率が、逆に内部所有の比率が上昇するという傾向が、この2年間にみられる。
もうひとつは、経営の意志決定権が財閥総帥、創業者一族に集中しているのではないかという問題点があることである。韓国では80年代から、持株会社が基本的に禁止されてきて、そのため現代グループや三星グループなどでは、60とか80の系列企業全体を統括するための制度がなされた。持株会社がないけれどもグループ全体の経営組織を統括するために、まず第一にグループ会長制度がある。その下でグループ意志決定機構がある(現代グループの社長運営委員会、三星グループのグループ運営委員会など)。5名や7名からなる総帥一族を中心として、古参の幹部が若干入って最高意志決定がなされる。そして常設の戦略機構としてグループ全体の経営を調査研究を行う部門がある(現在グループの総合企画室、三星グループの会長秘書室など)。
このような機構は、商法上の法的責任をもっていないが、しかし実態としては絶大な決定権をもっているのである。このようなトップダウンの体制は、70年代からのキャッチアップには迅速な意志決定とグループ全体の経営資源を戦略部門に集中する機能を果たした。しかし90年代になって、財閥が独自に資金調達をできる等々の構造の下では、個別傘下企業の取締役会は経営監視機能の役割を果たせず、株主総会の独立した決定権や監査役の役割も形骸化した。そしてこの問題が通貨危機における改革の対象となっている。
金大中政権によるコーポレイト・ガバナンス改革措置では、まず1998年まで、上場法人の少数株主権行使要件の緩和、上場法人に対する社外取締役制度の導入、企業集団の結合財務諸表の導入、事実上の取締役制度の導入、集中投票制度の導入がなされた。1999年には、大規模上場法人に対する支配構造の改善(社外取締約数の拡大、監査委員会の設置義務化など)、大規模金融機関の支配構造の改善が行われた。
内部ガバナンスが改善される事例としては、外国人所有比率が高いSKテレコムが、韓国で初めて監査協議会を設け、取締役変更要求権を付与したり、集中投票制度導入による少数株主保護を制度化するなど、内部ガバナンス改革が行われている。またLGグループのデイコムでは、市民運動体の「参与連帯」と内部ガバナンス改革で合意し、従業員持ち株会などをはじめとした少数株主が社外取締役2名を推薦したり、3名以上の監査委員会を設置し、一定規模以上の内部取引、株主・社債の第三者割当てに関する事前承認権限を付与した。
ところが、韓国の財閥全体とみてみると、内部ガバナンスの改革は遅れていて、今言ったような改革はまだ少数である。財閥によって特徴は異なるが、最も内部ガバナンスが送れているグループは現代グループではないかと言われ、それに対して三星グループやSKグループでは様々な改革が、若干、みられている。
最後に、今後、韓国の企業システムはどのように変化していくのかということだが、いくつかのアメリカ帰りの論者の中には、今後、韓国がアングロ・サクソンモデルに進むべきだし、進みつつあると主張する人もいる。はたしてそのようにいくのがどうかということが、重要なテーマだが、韓国がアングロ・サクソンモデルに移行する際にいくつかの障壁があるのではないかと私は考える。
まず第一に、韓国の場合、資本市場のキー・プレイヤーが財閥系である。アメリカでは、企業とは独立した機関投資家等の資本市場でのプレイヤーがいたり、独立的な信用評価会社があって、企業に対して信用評価を行う。ところが韓国の場合、証券会社、投資信託会社、生命保険会社の多くが財閥である。財閥が財閥をモニターできるのという問題があり、このことはただちにアメリカ型に行けないという問題を抱えているのではないかと思われる。韓国の金融市場では、まず銀行がかなり政府の影響力の下にあり、民営化以降も、財閥は4%以上の株式を保有できないため、依然として政府の干渉が強い。通貨危機の後、公的資金が大量に投入されたが、今現在、多くの銀行の株主として政府が存在している(いわゆる官治金融)。
銀行以外の金融では、財閥の支配力が圧倒的だが(「官治金融」と「財閥金融」の二つの構造)、財閥金融である資本市場のプレイヤーがはたして財閥をモニターできるのかということが問題になる。依然として、内部ガバナンスが改善されていない中で、98年には現代証券で株価操作事件が起こった。
まだアメリカほど資本市場におけるガバナンスが成立していない。そうした中で無理に資本市場中心のガバナンスをやろうとすれば、逆にモラルハザードにつながるという問題があると思う。
また、アメリカでは企業の株式所有が、かなり、少数の株主に分散され、経営者とは関係とない基幹投資家が株式を所有しているが、韓国では、依然として内部所有比率が高く、30大財閥で平均50%ということであるから、これはちょっと高すぎる。所有構造自体が大きな問題を抱えている。
そうしたこともあって、アングロ・サクソンモデルには、なかなか進みにくい、従って、第二金融圏と呼ばれる証券会社等の改革、内部所有構造の改革、財閥の内部のガバナンスの改革というものが、まず先行すべき課題であるのではないか。
では、韓国の企業ガバナンスは今後どのように進む可能性があるのか。まず上位財閥と6位以下の中堅財閥とでは資産規模でかなり違いがあるので、そこの部分では分けて考える必要があるのではないか。中堅財閥には、破綻した財閥もあり、かなり大規模なリストラを進めている財閥もあるが、ワークアウトという、完全に破綻にいたる前の債務調整、企業調整が多くの財閥で進められている。これは銀行主導で財閥の構造調整が行われ、銀行が中堅財閥の株主になるという事例がいくつかみられ、銀行の役割が向上しながら、当面、通貨危機直後の改革が進展している。
上位財閥では、銀行の牽制力も弱く、政府主導の改革、経営監視にならざるを得ないのが、ここ二年間の実情である。政府が財閥総帥を事業・財務改革の交渉パートナーとし、交渉が不透明に進行し、改革のルール化が遅れれば、財閥総帥の内部ガバナンス改革意識を高められない危険性がある。

【コメント及び討論】