セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第12回プロジェクト・セミナー

2000年3月9日 ◆於:社研大会議室

報告:福沢 啓臣
 グローバル化とドイツの大学改革

【福沢 啓臣】  グローバル化とドイツの大学改革

討論要旨

質問

ベルリン自由大学が近年になって教授を約6百人から4百人に減らしたということだったが、減らしたのは「教授」なのか「教員」なのか?

福沢

「教授」である。学部閉鎖や定年退官の後のポストを埋めないなどによってである。収入がなかったのでやらざるを得なかった。

広渡

学部を勝手に閉鎖していいのかという話になるが、ドイツの大学財政についての法律家の議論をみると、国家が大学を設立して、大学がきちんと運営できるように国家は財政保障をする義務を負う、ここまではいいのだが、しかし国家は設立者なので国家には改廃についての裁量をもっているという。ベルリン自由大学の学部が閉鎖されたことについては憲法裁判にはならないのか?

福沢

それはならない。学生側は権利をもっているが。

平石

授業料ということでは、ギムナジウムなどの下の学校も授業料はいっさいないないのか?

福沢

ない。私立を別にすれば。職業教育でも授業料がないわけだから、ドイツにとって教育はタダであるというのは常識になっている。日本では戦後先進工業国として経済成長を達成するための私立大学設立によって高等教育の相当部分を担わせたと言えるが、ドイツの場合、州政府、公のお金で大学を建てていった。ドイツでは1970年代にはGNPの1,3%が教育予算で、80年代には長期不況に入って0,9%までに下がったが、また1,1%までに持ち直した。今は大学予算や研究予算というのは、社民党政権の下では高等教育がドイツの将来のカギを握っているということで国家予算の中で増えている。

小森田

規制緩和の関連で、学部に権限を下ろすということだが、予算面では日本の場合、国立大学は学生や教官の数が決まれば、一定の基準に基づいて配分され、大学単位で再配分するということはなかったが、それを変えて大学単位で決定して配分するという部分を大きくしようとしている。そうすると各学部にどういう基準や根拠で配分するのかということが今後議論になっていくであろうが、ドイツの場合、学部に権限を下ろす際に大学全体で決まっている予算を各学部に配分する仕組みや考え方はあるのか?

福沢

それはちょっと分かりませんが・・・

フォリヤンティ氏

教授の人数、学生の人数、理系の場合は設備などによって決まるのではないでしょうか。

福沢

大学ごと、さらに学部ごとに分配の会議があって、そこで決まった額が学部に下りてくる。そしてさらに予算委員会が学科ごとに話し合いで分配合戦を繰り広げる。

橘川

社研はプロジェクトとして、90年代はどういう時代であったかということを色々と研究しようとしているが、我々が議論していて問題になっているのは、90年代になって日本はどうやらおかしくなったらしい、例えば国際競争力が弱くなったということである。通商白書では国際競争力の日独米の三国比較をやっていて、今日のお話しとの関連でいうと、研究費の推移について、研究費をストックとして考える方法とフローとして考える方法が出ていて、研究というのはだんだん累積していくという意味でストックを重視するとドイツは対GDP比で三カ国の中でドイツが一番高い。しかしフローでは、1987年くらいまではドイツがトップだが、その後落ちていった。現在は日本がトップで米独と続いている。ドイツはここ10年間くらいで、対GDP比で3%くらいの水準から2%くらいの水準に下がっている。アメリカやイギリスはITで成功した。しかし日本やドイツはITで乗り遅れた。そこらへんについてはドイツではどのように受けとめられているのか?

福沢

ドイツのシュピーゲルなどの高級週刊誌では、よくドイツの研究費が落ちていて問題であるということを言っている。これはなぜかというと、コール政権の末期的な症状として、社会保障費の赤字が続いたので研究費から社会保障費にお金をまわしてしまったというシフトの変換があったからである。

広渡

授業料の徴収問題は、公的財政の困難さをカバーしようとするのではなく、長い大学期間などの学生のビヘイビアを変えるということなのか?

福沢

それが一番の目的である。しかも最後に授業料をとれば財政的にもよくなるとも言っている。先ほど言ったベルリン工科大学のエヴァース総長なんかは、ドイツの減税もあるし、親元には授業料取ってもいいくらい還元されているはずだと言っている。子どもがいると18歳までに1人250マルク2人で500マルクのお金が毎月入るので、それを貯めておけば千マルクの学費くらい出せるであろうとも言われている。

広渡

ミュンヘンで「ミュンヘン大学・東京大学・大学の未来シンポジウム」というのがあって、ミュンヘン大学が強調していたのは、学生と教員の比率が東京大学と比べた場合、ミュンヘン大学が圧倒的に悪いということであった。これをみただけでも日本とドイツの違いがはっきりわかる。ベルリン自由大学はミュンヘン大学よりもっと悪い。日本は授業料をとっているが、それで教育の質を維持できているかどうかというのが問題である。それだけ教師がいても、いい教育ができているのかどうか・・・

<以下、ドイツでいかに英語が席捲しているかということに関する雑談に流れて終了する>

<文責:渋谷謙次郎>