今後のプロジェクトセミナー
セミナーの記録と日程
全所的プロジェクト研究
 

第5回 全所的プロジェクト研究企画委員会

第5回の委員会の議論から

 12月の企画委員会は、コアプロジェクトの切り口についての議論を中心に行われた。

1. 今後のプロジェクトセミナー予定

 

12月21日
平島健司氏「先進国における国家変容—日独比較の視角—」
中村民雄氏「1980年代以降のイギリス憲法・行政法の変容—日英比較の可能性」
1月25日
大澤真理氏「社会政策の比較ジェンダー分析」
2月22日
(コロキウム?)
3月
橋本壽朗氏

※ 1月に入れることを考えていたコアの切り口に関する3人の委員の問題提起の研究会は、スタッフセミナーとの調整がつかないため、2月とする。コロキアムをその問題提起の場としても良い。

 
2. コアプロジェクトの視角について

 

 橘川委員長、樋渡委員、大瀧委員の3人からプロスペクタスが提出され、橘川氏病気欠席のため他の2委員からコアプロジェクトの切り口と他の連携プロジェクトへの要望の報告があり、それを巡って議論が行われた。


I.. 『喪失の十年?——先進国の中の日本の政治経済変化』

 90年代の日本を見るについて、国内の不況と経済の国際化とが、政治や政府の性格にどのような変化をもたらしたか、それが企業・労働・金融など社会・経済的な状況にどういう変化・影響を与えたか、その結果として政策、統治構造にどのような変化が起こったか、ということを中心に見ていきたい。

 その際、経済・社会のアクターの変化を通して政策・統治構造にどういう変化をもたらしたかという側面は、他の連携プロジェクトが中心になって担当する事であると考えている。

 別紙のプロスペクタスは、大枠は前回委員会に提出したものと変わっていないが、政策改革の処で他の連携プロジェクトとの関連を意識している。この項目については私のチーム以外の人にも書いてもらうとか、少なくとも他プロジェクトと共同で研究会を持つことを考えている。

 他の連携プロジェクトは、上記の筋だてをある程度念頭に置いて企画を考えて欲しい。

 また、労働政策の背景には、賃金問題、雇用問題があり、またその背景には、組合の変化、産業構造の変化があって、これらが市場の調整やそのプロセスにどのような変化を与えたか、という問題がある。これに関しては、中村(圭)プロジェクト、大沢プロジェクトとの調整・連携が必要であるが、まだ接触していない。  結論として、90年代の変化をどう評価するか、という問題がある。新自由主義といわれるパラダイムとの関連で、日本政治について「改革」が起こったが内実はあまり変わっていない、という通説があるが、これを本当にそうであったのか、再検討する必要がある。

 以上のようにこのプロジェクトでは、企業・労働・金融といった現実の変化は他プロジェクトに期待し、統治の側面、特にそれが政策に反映する側面を中心に扱う。


II. 『「国際化」・「冷戦」以降——国際秩序の変容と日本』について。

 このチームでは、経済の国際化の他に冷戦の終焉や地球大の問題の発生などの国際的な制約が、二国間関係、地域関係、国際秩序にどういう影響を与え、またそれが日本の外交政策にどういう影響を与えたか、それがまた国際関係にどう跳ね返ったか、という問題を扱う。具体的には別紙の目次にあるとおりである。

 経済的なレジームはI. のプロジェクトの日本の経済的変化と関連している。国際的な要因が日本の国内に影響を与え、それが国際的な変化とともにどう政策に影響を及ぼしていたかを考えると、経済的なレジームの問題は地域の変動、地域の中の国内の変動と補完関係にあると考えられる。その意味で他のプロジェクト、特に末廣プロジェクト、橘川プロジェクトと関連している。橘川プロジェクトには、企業の国際化の問題をもっと入れる事を要請している。

 貿易や環境問題は大沢プロジェクトと関係する。日本の政策対応の変化、レジームの変化との関連を見る。

 

 私の考えている切り口は別紙「90年代の日本経済とマクロ経済学」の通りであるが、特に以下のような点を強調したい。

 何年かに渡るリサーチの結果、各プロジェクトで出てくる結論にそれほどズレはないのではないかと予想している。ただし次のような視点を共有することが重要である。

 

 90年代の日本経済を考えるとき、常に80年代との連関性・連続性を考えて分析することが必要である。そのうえで90年代の構造変化が、なぜ起きたのか、そのメカニズムを解明する。他のプロジェクトにもこういう視点から見ることを要請したい。

橘川委員長から要請された5点についての研究の概要

1. 金融

 組織と市場は相互補完的な関係であり、一方がうまくいかなければ他方も具合が悪くなると考えられる。組織(企業等)の、市場による規律付けが十分でなく不具合が生じた、というのが90年代不況の根幹にある。企業を市場の側から規律付けるには3つの方法があるが、株主などステイクホルダーによる規律付けがうまくいかなかったという点を、金融の面から考えたい。具体的には*不良債権問題がどうやって起こりどう処理されたか、*かつて日本経済の躍進の理由の一つといわれたメインバンク関係がどのように変わったか、の2点を中心に検討する。

2. 労働

 製品市場による企業の経営の規律付けという面から労働の問題をとらえたい。

 具体的には*「日本的雇用慣行」の変遷—従来なぜうまくいき、90年代になぜうまくいかなくなったかを実証的に見る。*経営陣の規律付け—経営者の慢心による無駄な投資がなされたとよく言われ、これは金融の問題とも結びつく。経営者の規律付けがどうなっていたかを実証的に検討する。*日本のGNPの6割をしめる非製造業の生産性が、なぜ他の先進国に比べて低いのか、という問題を考える。これが重要なのは、雇用関係等製造業と違ったところが多々あり、今まであまり実証的に研究されていない。この部分は12月セミナー報告者として招いた吉川洋氏が担当する予定である。

3. 政治

 これは監督官庁による企業経営の規律付けの問題であるととらえられる。

*大蔵省と金融業の癒着関係がもっとも大きな問題。つまり天下りとインフォーマルなセイフティネットの関係であり、これがうまく規律付けられていなかった。天下りを受け入れた銀行のパフォーマンスは基本的に悪くなっているという実状があり、これは大蔵省の「護送船団方式」と関連する。金融業のプライヴァタイゼーションの問題も重要である。郵貯で集めた資金がどのように配分され経済にどういう影響を与えているか、政策投資銀行とか公庫などのシステムをプライヴァタイズする必要があるかどうか、などを考えてみたい。*公共事業の配分システムとその効率性の問題—建設業に従事する人間が、日本は他の先進国に比べて異常なまでに多い。集票システムとの結びつきや、効率性でいえば地方のアメニティ上昇にどれだけ貢献しているか等々を実証的に見ていきたい。

4. 国際的枠組み

 日本を取り巻く環境の変化という問題もある。経済のグローバル化と日本経済のフリクションの問題である。グローバル化—自由な資本移動と変動相場制のもとで、どういう経済政策を行うべきかは重要であり、こういう観点から国際的枠組みを考えてみたい。国際化のもとでの金融政策をめぐる大蔵省と日銀の間の軋轢は非常に大きく、こういう問題はあまり取り組まれていないので、ここで取り上げてみたい。

5. 社会(日本経済のこれからの課題)

 高齢化と年金基金の問題は非常に重要である。都市問題も重要であり、政治の問題とも絡む。地方に厚く公共事業が配置されていて都市のインフラが貧弱。バブル時代の乱開発も現在の都市問題と絡む。

 

他プロジェクトとの関係


  橘川プロジェクトとは金融、樋渡プロジェクトとは政治、中村(圭)プロジェクトとは労働で共通の問題関心があるので、研究会を共同で行って相互理解を深めたい。また、金融再生法や早期是正問題、日銀法の改正など法律の分野からの議論を聞きたい問題もあるので、中村(民)氏のチームとも意見交換をして認識を深めたい。

議論から

 

 樋渡氏のはI. とII. ではどちらがメインになるか?。
 

 2番目のは他のプロジェクトとの連携を特に意識して構成した。しかしそれだけではなく凝集力はこちらのほうが強い

 

 橘川氏のいう国際的枠組みとは何をさすのか。

   橘川プロスペクタスの(2)-II. はハーモナイゼーションである。ハーモナイゼーションの圧力が企業にどういう影響を与えたか、という問題。
 

 70年代の状況、つまりオイルショックという外的ショック自体は、アジアとラテンアメリカで変わらないが、それへの80年代の対応で違っている。違いはどこにあったか、なぜ違っていたか、という問題である。私のチームは主として、1対応としての社会、2 自由化・規制緩和の背景・プロセス、キャパシティの二つにしぼる。

 金融制度改革やガヴァナンスでは共同研究を組みたいという研究者があまり居ない。われわれの処でも上記のような国際的枠組みの話が出てくるので、橘川氏のいう国際的枠組みの中身を知りたい 。

   橘川氏の企画の中でのハーモナイゼーションはどの面での?
 

 いろいろな規制のハーモナイゼーションではないか。末廣氏の、70年代への対応としての80年代という話はそれでよいのではないか。国際的枠組みの話は私も大滝氏も入っている。

 

 国際的枠組みが仮に資金の流れというならそれはそれで明確である。それまでの途上国の姿勢は、一つは貿易へのアクセス、もう一つは製造業に偏っていて、(結果としては第3次産業が伸びたのだが、)貿易を伸ばすためには工業製品輸出を伸ばさなくては、ということで製造業へのアクセスで金融を考えた。しかしミスマッチが起こり、その認識から自由化をやったが、とたんに国際的な短期資金の動きによって金融危機になった。橘川氏の言う国際的枠組みが、アメリカを中心とするレジームや、冷戦体制やその類のものだと、こちらもまた枠組みを変えなくてはならない。そこはあまり広げない方がよい。

 70年代に対しても80年代のイメージについてもある程度コンセンサスが必要である 。

   日本の場合80年代も良かったと言われているのは、第2次オイルショックへの対応が非常にうまくいったという認識がある。
   ラテンアメリカもアジアも、第2次オイルショックで累積債務問題が起こったのは同じだが、そのあとの回復過程が非常に違っていたのはなぜか、という問題がある。第2次オイルショックに関しては、コアの日本と共通の対象を設定することができる。
 

 いろいろな問題について国際レジーム、国際的な制約とそれへの対応ということで共通にできるのではないか

   樋渡プロスペクタスII. の最後の国際レジームは、国際貿易について、日米・アジア・グローバルな問題、というふうにたてた方がわかりやすいのではないか。末廣氏のいうように、先進国・途上国を含めて、70年代、80年代、90年代の政策的な対応という問題は、共通に取り組むことができる。国際的な関係そのものも研究するわけだろう。
 
3. プロジェクトニュースの発行

 すでにメンバーに配られているように、プロジェクト関係で配布される情報全てをプロジェクト研究Newsとし、通し番号を付けて整理する。今まで発行したものも事後的にナンバーを打つ。

 今月は、「プロジェクト研究News No.11プロジェクト事務連絡No.1」と「プロジェクト研究News No.12連携プロジェクト情報No.1」が新たに配布された

<文責 土田とも子>