--MESSAGE6-- (2001/10/12)  
東京大学社会科学研究所の末廣昭です。
このたび私たちの共同研究に大変関係の深い、そして興味深い本が刊行されました。重冨真一編著 『アジアの国家とNGO:15カ国の比較研究』
(明石書店、2001年9月、397ページ:ISBN4-7503-1468-4   定価 5800円)がそれです。この本は、南アジア4カ国(バングラデシュ、インド、スリランカ、パキスタン)、東南アジア6カ国(フィリピン、タイ、ベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポール)、東アジア4カ国1地域(中国、香港、台湾、韓国、日本)をカバーし、各国のNGOの活動を相互比較的に整理し編集したものです。執筆者は大半が地域研究に従事する研究者です。香港の執筆担当者は、私たちの研究協力者でもある東京外国語大学の沢田ゆかり氏です。
国家とNGOの関係をどう考えるか。この問題は、私たちの研究会の第三のテーマであるアジア、ラテンアメリカ、ロシア東欧の「生活保障システム」{社会政策」をどう捉えるかという研究課題と密接に関わりますし、国家がカバーしきれない領域、つまりNGOやNPOの「政治的スペース」「経済的スペース」をどう考えるかという重要な問題とも関係します。アジア15カ国における比較研究は、おそらくこの本がパイオニア的仕事だと考えます。関心のある方はぜひ手にとってご覧ください。なお、編者の連絡先とメッセージを下記に添付いたします。

重冨真一氏 アジア経済研究所地域研究部sigetomi@ide.go.jp
-メッセージ-
 NGOはもはや開発途上に特有の存在ではない。先進国においても、市民社会の担い手として期待されるようになった。NGOはひとつの運動体であるから、これまでの研究にはNGOの奨励、発展を目的とした「規範論」的アプローチのものが多い。しかしNGOが社会の恒常的アクターとなった現在、NGOを「現象」として分析する試みがあってもよいのではないだろうか。
 ところでアジア諸国を見渡すと、同じNGOでもずいぶんとその現れ方が異なっている。韓国のNGOは政治運動に熱心だが、台湾ではそれほどでもない。バングラデシュではNGOが政府を代替するほどだというのに、パキスタンでは限られた活動範囲しかもちえていない、等々。本書ではこうした違いが、NGOを取り巻く環境の違いによって現れていると考える。分析のキーワードは「スペース」である。
 まずNGOの存立余地は、市場、国家、コミュニティという既存セクターが十分な資源供給をおこなっていないところにあるとみるもので、これを「経済的スペース」と呼ぶ。一方では、国家やコミュニティが政治的にNGOを許容する程度によっても、NGO活動の余地が決まると考えて、これを「政治的スペース」と呼ぶ。これら2つのスペースの「形」からNGOの活動スタイルや分野の特徴が国ごとに決まってくる、と本書は主張する。しかしNGOはこうした所与の「スペース」を変えようとする主体的存在でもある。本書はNGOのアドボカシー活動を、現状では埋め切れていない「スペース」をさらに埋めようとする動きとして説明する。
 本書は、アジア15の国・地域という広いカバレッジをもつ。と同時に、各国を比較する視座が共有されているという点でも、類書のないものである。NGO研究のみならず、国家論や市民社会論にも貢献するところ大であろう。なお本書の英語版が、来年2月にシンガポールのISEAS(Institute of Southeast Asian Studies)から刊行予定である。