セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第7回プロジェクトセミナー

1999年11月16日 ◆於:社研大会議室

開発と市場移行のマネジメント
—ラテンアメリカ、アジア、ロシア・東欧の経済制度改革の比較研究—

問題提起・司会:中川 淳司(社会科学研究所)
ゲスト:Choong Yong Ahn(韓国中央大学国際関係学大学院教授)
ゲスト:Joao Carlos Ferraz(リオデジャネイロ連邦大学経済研究所長)
ゲスト:Keun Lee(ソウル大学経済学部準教授)
ゲスト:河合 正弘(世界銀行 東アジア・太平洋 主席エコノミスト)
ゲスト:Miguel F. Lengyel(ラテンアメリカ社会科学研究院プロジェクト副代表)
コメンテーター:末廣 昭、藤原 帰一

以下は第7回プロジェクトセミナーの議論の概要である。

【河合 正弘】  開発と市場移行のマネジメント
—ラテンアメリカ、アジア、ロシア・東欧の経済制度改革の比較研究—

問題提起

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 まず世界銀行の、経済開発や開発戦略についてのアプローチを述べ、それからこのプロポーザルのいくつかのイシューや問題点について話したい。

 世界銀行の役割は、持続可能な開発を促進し、貧困を撲滅し、GDPのような経済指標からみた経済開発を進め、消費を伸ばし、生活水準や教育水準を上げ、健康状態を改善すること等々である。ある特定の国が経済開発のどの段階にあるかを示すために多くの経済指標が選択される。基本的な目的は経済開発と貧困の撲滅を達成することである。

 また世界銀行は、開放経済や、自由化やグローバリゼーションが基本的に国にとって良いという考え方を促進するものであるということを念頭に置く必要がある。もちろん開放や自由化やグローバリゼーションに関わるネガティブな問題もあり、世銀は中川氏が言われたように新自由主義的といわれる政策をとっているが、自由化や経済開発やグローバリゼーションの結果起こっている問題、例えば環境問題や所得の不平等などの問題にも取り組んでいる。IMFや世銀にはたくさんの社会主義理論出身の人々や、ジェンダーやデモクラシーや政府や崩壊といったイシューを研究対象とする人たちもいる。これらをカヴァーしてコメントしたい。

 第1は方法論についてである。

 中川氏の提示した方法論は政治経済学的なアプローチとされ、"ある歴史的なコンテクストと文化的な環境のもとでなぜある開発戦略が選択されたか"という問題に答えることを目論んでいる。しかし私はこれでは全く不十分だと思う。

 フェラス氏は、誰が開発から利益を得て誰が失ったのか、と問うた。これこそが政治経済学的なアプローチで取り組もうとする場合のキー・イシューであるが、中川プロポーザルではこれが取り上げられていない。政治経済学的アプローチがはっきり定義されていないので、評価が出来ない。このアプローチがこの研究を進めていく上で有効かどうかもはっきりしていない。政治経済学的アプローチについてもっと説明が欲しい。

 関連する問題として、中川氏の提案する仮説も十分に定義されていない。 仮説は客観的な方法で検証されねばならないものである。このような意味での仮説は中川氏の計画の中では何か。どのようにして我々は仮説を取捨選択できるのか。おそらく一つはグローバリゼーションは経済開発を促進するものである、というものだろう。それとも歴史的経験や制度の配置が戦略を選択するのに決定的な要因である、というのがそれか。しかしこのような仮説は検証できない。

 第2に、この研究のパースペクティブについての問題がある。

 世界銀行ではいつも多くの近未来を展望するような問題に取り組んでいる。この国はこれからどうすべきか、とか、世銀はこの国にどういう対策を提案すべきか、などである。世界銀行では、どのようにしてこの国はそういう開発戦略を採ったのか、とか、どういう要因がこのような結果を招いたのか、ということはあまり取り上げない。その意味では、この研究は大変良い研究である。これらは過去形の問題だがこれも重要である。こういう問題に答えることなく近未来の答えを得ることは出来ない。

 しかし同時にもっと近未来の展望的な取り組みをすべきである。例えば中国についてのアクチュアルな政策提言は何か、といったようなものである。

 また、この研究が何を焦点とするかという問題について質問したい。中川氏のプロポーザルでは、第1に貿易、投資、金融、資本の流れの自由化をイシューとして提示し、第2に国内の経済改革、第3にセイフティネットについて書かれている。

 グローバリゼーションは国内の経済改革がなければ達成できないものである。この二つは互いに関連しながら同時進行する。グローバリゼーションは一国の経済にネガティブな影響をもたらす場合があり、自由化もそうである。それで中川氏は第3の課題としてソーシァル・セイフティネットを取り上げたのだろう。これはきわめて適切である。

 しかしこの二つの間には重要な点がひとつ欠けている。それは組織や制度のキャパシティ、自由化やグローバリゼーションを実施し、ソーシァル・セイフティネットを整える国内のキャパシティである。この国内のインスティテューショナルなキャパシティが不足していたらどんな国の経済でも経済発展を達成することは出来ない。グローバリゼーションが達成されても経済は変化や資本の流れなどで破壊されてしまうだろう。

 私の提案は、自由化と国内の経済改革とを一つにまとめて第1とし、第2に新しいトピック、インスティテューショナル・キャパシティを入れる、というものである。経済政策を実施したり、経済を運営したりする能力、つまりマクロ経済政策、財政・金融政策を実施し、政府を機能させ、市民サービスや行政サービスを実施するキャパシティについて、世界銀行は研究している。多くの途上国は政府システムや法的な枠組みや民主主義的な制度という点でも、非常に脆弱である。これは経済発展にとってコアといえる問題である。経済発展は国内の組織的・制度的な基盤をしっかりさせることを抜きにしては達成できないし、持続できない。この論点はぜひ取り上げるべきである。

 また、第3のイシューであるグロ−バル化の社会的な帰結とセイフティネットは、重要なトピックなのだが、以下の意味で取り上げることが非常に難しい。多くの途上国はフォーマルなセイフティネットの制度をもっていなくて、インフォーマルなセイフティネットが、所得を失ったり失業したり病気などで遭遇する困難を吸収する役割を果たしているのである。どうやってこれを検討したらよいのか。そして国民所得が非常に低い国々が、どうやってOECD諸国のようなセイフティネットを作ることが出来るというのか。またどのようにしてソーシァル・セイフティネットの達成度とか成功度とかを評価するのか。これは難しい問題である。

 世界銀行や多くの開発経済学者が検討している興味深い問題は次のようなものである。グローバリゼーションは本当に経済成長を進め、所得配分を平等にするのか、経済の自由化は所得配分の平等を達成するのかという問題、もしそうでない場合これらの問題にはどういう政策が効果的なのか、等々であり、これは非常に重要な問題である。こうしたことを、このプロジェクトが取り組むいろいろな問題に含めて考えるべきである。このプロジェクトは方法論がまだ弱いのでもっと考えるべきである。

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<要約:土田とも子>