セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第21回プロジェクト・セミナー
韓国の企業ガバナンス

2000年7月18日 ◆於:社研大会議室  ◆司会:末廣 昭
報告:高龍秀(コ・ヨンス)甲南大学経済学部教授
コメンテーター:星野妙子(アジア経済研究所)、橘川武郎

以下は第21回プロジェクトセミナーの議論の概要である。

高龍秀】  韓国の企業ガバナンス →【コメント及び討論】

I

韓国は90年代に企業金融、企業の資金調達方法が変化し、そのことによって企業モニター、財閥に対する経営監視の構造が変化したのではないかと考えている。そこでは企業に対するガバナンスについては、大きく二つに分けて考えると韓国の問題を整理できるのではないか。第一は、財閥など企業組織の外部の利害関係者がいかに企業をガバナンス、モニターするのかということである。第二は、企業内部の組織の問題として、経営決定者に対して取締役会や監査役等々がチェックするという内部ガバナンスの問題である。
別の側面からみると、通貨危機の直後、IMFなどでは、アジアが通貨危機に陥ったのはクローニー資本主義(1970年代以来の企業=政府の癒着、緊密な関係)が原因なのかという考えもあるが、私が言いたいのは全く逆で、政府の企業に対する一定のガバナンス、モニター機能が90年代に弱体化したことが通貨危機の原因であり、その背景には企業金融の変化があるのではないかということである。
韓国の企業金融の変化を具体的にみていくと、70年代までの企業金融は、日本と同じように間接金融中心の企業金融で、しかも韓国の大手都市銀行は81年まで政府系であった。政府が株式を保有し、政府の5ヵ年計画、あるいは活発な重化学工業政策に沿って参入する財閥に対して政府系金融機関が手厚く支援を行うという構造があった。その際に、財閥が重化学工業化の過程で過剰投資など経営悪化した場合、政府はその部分の負担をするということで、拡大志向が体質化する傾向がみられた。さらに、政府が財閥に対して、どういう基準でモニターするかということだが、例えば、輸出支援金融という制度がある。政府が量(輸出規模、生産実績)を基に財閥をモニターする。金融機関が独自の基準で審査をするという機能はほとんど果たせなかった。つまり、財閥に対して、主に政府がモニターするという構造が70年代までにみられた。その構造は80年代以降、変化をみせ始める。背景としては金融の自由化の流れがある。80年代後半から、韓国はアメリカとの経済摩擦が深刻になり、アメリカとの政府間交渉があり、アメリカからの要求で金融の自由化を求められ、それを受け入れざるを得なかった。さらに90年代になると、OECDへの加盟というのが韓国政府の重要な目標になる。これは96年末に達成する。OECD加盟の前提条件として様々な交渉をするが、金融資本取引の自由化を進めなさいというような要請がOECD側からなされ、それを進めざるを得なかった。そういう中で企業金融の変化がみられた。まず第一に、直接金融がかなり拡大した。背景としては70年代から企業は銀行借り入れを中心にやってきたため負債比率がかなり高いという財務構造の問題があり、それを改善するために証券市場の育成ということが、一応、政府の方針で出てきて、それが80年代以降進んで、直接金融の拡大という形になる。第二には、「第二金融圏」からの資金調達が増えたということがあげられる。「第二金融圏」というのは、韓国独自の言葉で、つまり銀行以外の金融機関のことを「第二金融機関」とも呼ぶ。証券会社、投資信託会社、保険会社等がそれにあたる。これらの非銀行金融機関での規制緩和が80年代に進んで、特に上位財閥によるこれらの証券会社、生命保険会社への参入がさかんになり、そこで確固たる地位を築き、そこからの資金調達がさかんになっていったというのが90年代の特徴である。第三に、90年代に財閥の海外直接投資が増える。そして海外の現地法人が海外で外貨の借り入れや証券発効が増える。このような資金調達構造の変化があり、90年代には、70年代からあった政府の統制の枠を抜け出して、財閥がかなり独自に資金調達をできるという構造が進んだのではないかと考えている。もうひとつは、政府の産業政策も後退した。例えば韓国では80年に深刻な経済危機があって、マイナス成長になった。その直後、重化学部門での投資調整というのがあった。それによって例えば乗用車産業では参入規制が行われる。それが撤廃されて、産業政策の面での自由化があり、上位財閥がこぞって新規産業に参入する。
こういう形で、90年代には資金調達の面でも、産業政策の面でも、もともと膨張志向が体質化していた財閥に歯止めをかける、モニターを行うというもとが不在になったということが90年代に起こったと言える。そのため、96年までにかなり過大な借り入れと投資が行われて、通貨危機に陥ったのではないかと考えられる。

【コメント及び討論】