セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第18回プロジェクト・セミナー
原子力発電とエネルギーセキュリティ

2000年5月23日 ◆於:社研大会議室
報告:鈴木 達治郎

第18回プロジェクトセミナーでは鈴木達治郎氏から報告がなされた。

【鈴木達治郎】  原子力発電とエネルギーセキュリティ

討論要旨

工藤

配布資料8頁の「さらに、この問題は高レベル廃棄物処分問題とも密接に関連する。我が国では、再処理が前提となっているため、再処理工場からのガラス固化体が高レベル廃棄物と規定されている。」の部分をかみくだいて説明してほしい。

鈴木

高レベル廃棄物の定義が国によって違う。アメリカ・スウェーデン・ドイツ・カナダでは原子炉から出る使用済み燃料そのものが高レベル廃棄物とされ、地層処分されている。日本では使用済み燃料は廃棄物ではなく、プルトニウムを回収するためのリサイクル燃料資源と考えている。このように呼ぶことによってのメリットは中間貯蔵の場所を確保するために、地元の人達に、使用済み燃料は廃棄物ではなく、いずれ使用済み燃料を持ち出すという言い方ができる。ロシアの法律では海外から放射性廃棄物を持ってきてはいけないという規定があるが、使用済み燃料を含むかどうか議論が続いている。一方ここで問題を複雑にさせるのはプルトニウムが入っているため核拡散問題が絡んでくるし、また安全基準も変わってくる。以上のように使用済み燃料が廃棄物かどうかは微妙な問題をはらんでいる。

工藤

再処理工場からのガラス固化体が高レベル廃棄物と規定されているというのは日本の特殊事情か?それは再処理が前提となっているのか?

鈴木

日本では再処理工場から排出されたガラス固化体のみ高レベル廃棄物と規定している。海外では高レベル廃棄物は使用済み燃料とガラス固化体の両方をさしている。

加瀬

原子力を進める国の政策と商業的に運用していこうとする電力会社のコスト面での分担関係について聞きたい。日本での特徴というものもあるのか?

鈴木

基本的に国が支出するのは、研究開発と広報の部分だけである。研究開発については原子力開発の予算の7割を国が負担している。その他、発電所建設、再処理の費用も全部民間負担となっており、電気料金でまかなっている。立地のための交付金は国の特別会計から出ているが、この資金の源泉も電気料金から出ている。民間はサイクルを設立するのに開銀融資(60年代〜70年代)の低金利で貸し付けのメリットを貰うくらいである。

加瀬

長い期間の約束として仕組みを作ったなかに規制緩和という事態が入ってきて、変わらざるをえない状況をどう予測していくのか?電力の価格の決定において、その部分は上積みという形でできるのか、それとも国の負担として動いていくのか?

鈴木

いままではcapital costがかかれば事業報酬率をのせて料金に反映していたが、規制緩和が入ってくると、電力会社は自分で払えるかどうか計算しなくてはならない。原子力が大変なのはcapital costが大きいので長期間で計算すれば安くなるが、最初の5〜10年が大変なので、思い切って投資できるかどうか経営上リスクが大きく厳しい。さらに今度の廃棄物法案はまもなく通ると思われるが、廃棄物処理(ハイレベル廃棄物を地層処分する)ために国がファンドを作る。しかしお金を入れるのは電力会社。実質的には0.1円位だが、何万年もかかる廃棄物施設のために、事業の責任体制として民間の電力会社が対応しきれるものではないと思われる。 海外をみると、アメリカは民間が資金調達をして、国が処分の責任を持つ。これは軍事上の絡みもあるが、他の国では民間がやっている所もあるし、国とのジョイントもあるという状態。ただ、何かあったら国が責任を持つというのは各国共通の認識ではある。

沢井

資料3頁のところに書いてある通産、民間の「商業プログラム」と科学技術庁管轄の「研究プログラム」の二元体制についての理解のしかたについてお聞きしたい。巨大技術が巨大になるほど、ほころびる可能性が大きくなるの中で、問題が起こって初めて学習することもあると思うが、二元体制の場合、研究開発を担当する方から見れば、現実化していくときの問題を普通より見にくくなっていないか、また商業プログラムを実行する立場からは研究開発により過大な期待を抱かないか、そしてこれらの事は日本の特徴として言えるのか?もう一点は99年の事故があって通産、民間のウエイトが高まったと思うが、電力会社という私的な会社では手に余る問題があった時に、二元より今の形の方がかえって問題を難しくしていないか。

鈴木

二元というのは科学技術庁と通産の関係を意味することもあるが、政府と民間を意味するという二つの意味がある。他の国と比べて日本の特徴というのは責任の所在がはっきりしていない事である。顕著な例が再処理で、東海村の施設は商業施設か研究施設かの問題で、会計上は商業施設であり位置付けは研究施設であるという曖昧な存在になっている。また一番電力業界で重荷になっているのは六ヶ所村の再処理工場である。長期計画で不可欠と規定されているので支払う側の電力会社はコストが高すぎるのに、経営判断でキャンセルができない。純粋に経営判断で商業ベースで判断できるはずのプロジェクトでさえ、判断できなくなっている。このように相互依存して意思決定が出来ないようにしている今の二元体制は問題がある。

仁田

体制が変わって、通産のほうに二元化されて、変わることはあるか?

鈴木

プラス面は、通産の方が科学技術庁より電力会社の意向を良く知っている面、より合理的にいく可能性がある。マイナス面はcheck and balanceがきかなくなる可能性があるということです。私が提案しているのはリサイクル燃料資源として中間貯蔵をいくらかでも国が面倒を見てくれると良いと思う。このままでいくと、市場原理にまかせて欧米のように原子力は衰退するのではないかという懸念があります。

平石

今後のFBRの見通しは?

鈴木

ウランが余っている状況なので、研究開発として将来の技術進歩追究としては価値を見出すことが出来る。将来ウランがなくなったときの保険と考える程度。(掛け捨てかもしれないが)

橘川

最後にアジアの原子力について大筋の話をしてほしい。

鈴木

今後アジアの原子力が伸びると言われているが、なかでも中国が重要である。ただ、日本同様、中国も韓国もウランを持たない国なので、アメリカサイドの懸念は中国がプルトニウムを使うのではないか、中国の原子炉は安全か、である。(日本が心配という話もあるが)このため、地域で対話を深めて協力して使用済み燃料の管理をしようという「アジアトム」の構想が出ている。

<文責:中島美鈴>