セミナーの記録と日程

全所的プロジェクト研究

第14回プロジェクト・セミナー

2000年3月30日 ◆於:社研大会議室

ラテンアメリカの自由化  報告:小池 洋一(アジア経済研究所)

ラテンアメリカにおける福祉国家  報告:宇佐見 耕一(アジア経済研究所)

ラテンアメリカの社会政策   報告:浜口 伸明(アジア経済研究所)

 以下は第14回プロジェクトセミナーの議論の概要である。

【浜口 伸明】  ラテンアメリカの社会政策

ラテンアメリカの社会政策

 1987年入所当時、ラテンアメリカはインフレ、累積債務などのマクロの問題が中心課題であり研究を進めてきたが、その中で地域格差の問題に関心を持ち、研究を進めている。地域の問題とマクロの問題を結びつけるものとして分権化が中心課題となっており、(私自身は)特に医療の財政上の分権化に関心を寄せている。

 社会セクターを取り巻く環境として、ラテンアメリカはアメリカの議論に敏感に反応する。ワシントンにおいては貧困、ジェンダー、環境、零細企業などの「社会セクター」に重きを置いており、”New Washington Consensus”が形成されているといえよう。

 世界銀行等の国際機関が貧困問題に注目しているように、IDB(Inter-American Development Bank)はSocial Safety Netの強化に重点を置いている。具体的な政策課題として、都市環境整備、自然環境保護、零細企業発展促進、社会的弱者保護、教育、医療などがあげられる。これらの問題についてIDBではラテンアメリカの経済危機に対して分権化・民営化・民活を利用して、財政当局の社会支出を減らさないまま、社会サービスの制度改革を進める大型のプログラムローンを組んで支援している。その支援は地方政府に向けられ、民間の活力を生かすような方法で実行される事を基本とする。

【アジア経済研究所の研究動向】

・北野浩一「チリにおける年金制度民営化のマクロ経済効果」『ラテンアメリカ・レポート』12(5)、1995年 …チリにおける80年代後半からの年金民営化政策のマクロ的インパクト、(例 投資率・貯蓄率の向上や資本市場の育成)に関する議論。

・浜口伸明「ブラジルの公的保険制度―理想と現実の間で」『ラテンアメリカ・レポート』14(2)、1997年

・幡谷則子「コロンビアにおける都市貧困層の住民組織―自助努力システムとしての機能」

(幡谷則子編『発展途上国の都市住民組織―その社会開発における役割』1999年<研究双書シリーズ493>所収)…住民組織の最近の動向、特にlocal public goodsの供給に際して政府を動かす勢力としての住民組織の重要性について研究。コロンビア首都ボゴダの貧困地区においてそのような活動が活発に行われている事を実証的に研究している。

 最近の各国際機関のレポートにおいても「社会セクター」を重視したものが多くなっている。

・Stallings, Barbara and Wilson Peres, Growth, Employment, and Equity: The Impact of the Economic Reforms in Latin America and the Caribbean, Brookings Institution Press, Washington D.C. …自由化の中で成長の伸び、特に雇用の伸びが鈍いため所得は伸びない。成長を取り戻すには雇用の伸びと所得の平等化が伴っていなければならない(Growth with Equity)。 Equityに注目すると「社会セクター」への政策が強調されている。

 80年代…一連の改革が行われる前

 90年代初め…改革が始まっている国とまだ始まっていない国(例 ブラジル、ペルー)が有る。

 96,97年…早い時期から改革を始めていた国(例 アルゼンチン、チリ)では改革が完成に近づき、遅くから改革を始めた国では本格化した。

 新自由主義の中で社会支出が均質であるという見方がある一方、実際の数字では国民一人あたりの社会支出、そして政府支出全体に占める社会支出の比率、対GDP比の社会支出の比率のいずれにおいても増加している。(しかし、何を社会支出に含めているかには問題があり、注意が必要)

 これらに配慮した国(例 チリ)では生産性の伸びが高く、パフォーマンスも高く評価できる。

・Inter-America Development Bank, Facing up to Inequity, Economic and Social Progress in Latin America, Washington, D.C., 1999. …貧困問題に注目し、所得分配の悪化が悪循環しており、その中で、ジェンダーの問題に注目し、家庭における女性の地位の低さが問題解決を困難にしていると論ずる。

【ブラジルにおける医療の分権化】

 87年の憲法により、全ての国民が無料で医療サービスを受けられる。それ以前は、貧しい人は一部の国立ないしは慈善病院の無料サービスを受けていたが、現在では地区の住 人であればどこでも無料で医療を受ける権利を有している。当然この新しい統一公的保険システムは財政コストを生む。実施に際して、ブラジル政府はヘルス・サービスを提供する責 任者として各市や病院を単位として地区の住民にしかるべきサービスを提供するという権限の移譲が行われた。各市などはその権限の範囲に応じて保険管理システム・体制・人員・設備を管理する。権限の移譲に伴う財源問題解消のため、国全体で目的税として間接税を徴収し、それを各市の医療供給能力に応じて配分する。システムとしては完成しているが、財源の規模は小さく、十分な供給がなされていない。また薬・医師の不足により、住民の全ての需要に対応しきれていないのが現状である。IDBのプログラムローンでは特に設備面をサポートしている。以上は国による公的医療サービスであり、高所得者はよりよいサービスを受けるために民間機関を利用したり、民間医療保険に加入している。

<記録:表江清美>