本研究は、90年代以降の日本における住宅保障システムの変化あるいは不変化の様相を学際的・実証的に検証し、それを通じて、90年代日本社会の重要な側面を明らかにするとともに、今後の日本における住宅保障の方向性について一定の展望を得ることを目的としている。
  「住宅」ないし「居住」は社会成員の生活の質が問われるもっとも基礎的な問題領域の一つであるが、90年代に入って、この領域ではさまざまな問題が顕在化してきた。たとえば、少子・高齢化の進行は人口動態の面から住宅・居住問題に長期的に見て大きな影響を与えつつあり、また、90年代以降の長期不況は、一方でホームレスとよばれる人びとの急増をもたらすと同時に、住宅ローン破綻の増加などの形でメインストリームの中間層の住宅取得にも深刻な打撃を与えている。さらに、企業のリストラに伴う企業内住宅保障システムの揺らぎや、グローバリゼーションの進行に伴う外国人居住の問題も無視できない重要な問題である。
  このような社会的・経済的レベルでの変化とそれに伴う住宅確保の不安定化に対して、今あらためて、国家の政策が<社会成員に対する良質でアフォーダブルな住宅の保障>という課題にどのように応えうるか問われている。90年代以降の日本の住宅政策の展開とそこに見られる特徴を明らかにし、さらにそれを戦後日本の住宅政策の長期的な歴史的展開の中に位置づけ、また、国際比較の観点から検討することは、社会科学的な住宅研究の喫緊の課題である。そしてその際、国家と市場の関係が基本的な分析軸となることは当然の前提として、さらに、第3のセクターとしてのNPOなど地域に根ざした市民・住民の活動に目を向けていく必要もあろう。
  そして以上の、<住宅問題>と<住宅政策>、さらにそれを包含する<住宅保障システム>全体の分析は、マクロに見れば、日本の<福祉国家>としてのありかたを居住の場から問い直すことにつながる。そしてその延長線上には、近年の福祉国家研究の主要な研究動向である福祉レジーム論のなかでの居住・住宅保障の意義や「日本型」の位置取りといった理論的な課題が浮かび上がってくる。
  本研究では、「グローバライゼーションと福祉国家」プロジェクトとも緊密に連携をとりつつ、以上のような多面的な視角から、90年代以降の日本の住宅問題と住宅保障システムの諸相を分析する。それを通じて、90年代日本社会の重要な側面が明らかにされるとともに、これからの日本における住宅保障の方向性についても重要な示唆が得られるものと期待される。